先日、自分と同じように社会参加活動をアクティブに行っている障がい当事者で、プライベートでも親交の深い友人を自宅に招き、休日の時間を共に過ごしました。久しぶりに友人と過ごす時間は単純にとても楽しかったです。ただただ眉間にしわを寄せて活動するばかりではなく、たまには純粋に楽しむ時間を設けることも、とても重要なのだと実感しました。
友達と過ごすプライベートな時間も飲食の介助をしてもらったり、お尻の位置を定期的にずらしてもらったり、トイレに行きたくなったときに介護をしてもらったりと、常に介護者の同席が必要です。
我が家の介護スタッフは同席する際、黒子のように存在を消しつつ、後ろで待機しているというのがスタンダードです。しかし今回遊びに来てくれた友人は、同じ障がい当事者でも介護スタンスが全く違いました。友人は私とのおしゃべりの中に私の介護者も自分の介護者も自然に巻き込んで、いわば4人でその場を楽しんでいるような空間をあっという間につくりあげていくのです。
私は障がい福祉一本槍で生きてきた人間で、口を開いて出てくる話題はといえば、寝ても覚めても介護とか福祉とか、介護者の確保が難しいなどといった耳にタコができるような狭い範囲のものしかありません。障がい福祉とは別の話題をなんとかしようとしたら、食べることくらいでしょうか。
友人はそんな私とは全く違い、話題の豊かな人です。もっとも年齢もまだ30代と若いこともありますが、お化粧やネイルケア・ヘアカラーの話題など、障がいや困難さなどといったワードとは全く関係のない話が次から次へとなめらかなまでに飛び出し、楽しい話題が広がっていきます。
普段はまったくもって関心のない美容の世界の話を彼女から聞いて共に笑い合ったり、おもたせで頂いた果物を食べたり、障がい当事者とその介護者といった立場も気にせず過ごした時間は、殺伐とした日常を忘れさせてくれるオアシスのようなものでした。
友人の介護者までもまるで長年付き合いのある仲間と過ごしているかのように自然に場の空気を和ませ、会話に巻き込める彼女にうらやましさを感じたものです。またその場の雰囲気を楽しむふたりの介護者の様子を見ながら「こんな利用者が相手だったら介護者はきっと楽しく介護ができるんだろう」とも思わされました。
もちろん普段から介護者に黒子に徹するよう強制しているわけではないのですが、自分から介護者に話題を振るということをめったにしない私にとって、私の介護者が友人の何気ない話題をきっかけに会話に加わり、プライベートな話も交えながらニコニコと笑う姿は、とても新鮮で驚きを隠せないものでした。
他愛ない会話の中から介護者の人間性や暮らしぶりを想像することができ、「ああ、この人にはこんな一面があるのか」と、改めて自分の介護者のことを知るきっかけとなりました。介護者はロボットではなく、感情や意思もたくさん抱えながら、日々私の生活を支え続けてくれています。その支えがあって、自分がしたいと思うことを実現しながら生きる23年目の地域での一人暮らしが成り立っているのです。
私はCIL運動を通し、自立について学び、これまで地域で自立生活を続けてきました。CILの掲げる理念に少なからず疑問を抱き、10年を区切りにその活動から離れ、一から「自立とは何なのか?」を考えながら新しい生活をスタートしました。それから丸5年が経ちます。
当初、強烈な印象とともに身体に沁みついた自立に対する理念はそうそう簡単に抜けるものでもなく、自然とそのスタンスが出たり引っ込んだりしながら日々を過ごしています。
最近いささかキャパオーバーな生活状況が続いており、限られた時間の中から社会参加活動に充てる時間や友人と過ごす時間、睡眠時間を捻り出そうとするあまり、ふと我に返ると、たとえば一人の介護者と過ごす12時間の間に、ひたすら「何時何分にこれやって」「何時にお風呂に入って」「何時に寝る」「明日の朝は何時に起きる」みたいな介護指示的会話しかしなかったなあと反省することが多々あります。
私は元々雑談がとても苦手で、いざしようとすると努力が必要となり、真向から構えてしまうのもあって、つい寡黙になってしまいます。ただ無理して雑談をしないまでも、せめて私の想いを叶えるために一生懸命働いてくれている介護者を追い詰めないよう、気持ちよく過ごせる空間をつくりたいとは考えます。
しかし日々の活動で抱えていることが多すぎること、それから相手にどう身体介護をしてほしいのか口で伝えることに、何年経っても要領を得ず、そんな自分にも苛立ちを感じることもあり、「早く!丁寧に!私の手足のごとく介護をして欲しい」とイライラ声を出しながらきつい口調で伝えてしまうことがあります。
そうなると、みるみるうちに介護者の表情も硬くなり、部屋に流れる空気が悪くなってしまいます。それが高じて介護者から「現場を外れたい」と言われてしまうといったことも幾度となく経験してきました。私の負の部分です。
友人の介護者との接し方を見ていて、改めてフレンドリーな介護者との関係性の重要さを再認識することができました。そしてその友人だからできる介護者との関係性のつくり方を真似するのではなく、たとえなにかしらが起こってしまっても、せめて毎回の介護終わりは、満面の笑みで「お疲れ様。ありがとう」とねぎらいつつ、介護者を送り出せるよう、努力していこうと考えています。
◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生
養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。
◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動