地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記116~別れの季節に思うこと~ / 渡邉由美子

この原稿を書いているのは2月最後の日曜日です。年が明けたと思ったら早くも2ヶ月が経ち、本当に年々、月日の経過に心も身体も追い付かないと感じています。

私は日常生活の一部を自分で探した学生さんにボランティアとして関わってもらっています。そして住まいのある台東区から長年の運動の成果として、無資格でも少しは時給の払える「地域参加型介護サポート事業」を設けてもらうことができました。

さらに、学生さんたちに重度訪問介護の資格を取得するための統合課程を受けてもらい、毎週土曜日の夜勤をお願しています。これらを活用することで、より自由度が高く、自分のやりたいことを100%実現できる生活を組み立てることが可能になっています。

学生さんたちには「私の手足が動いていたら、こんな風に生活したい」と思うようなことを素直に実現してもらっています。ただ私がボランティアを募る大学の学生さんたちは、将来のビジョンを明確にもって大学に入学する人が非常に多く、卒業後はボランティア活動で得たことを活かして介護業界に就職という訳にはなかなかいきません。

さかのぼること30年以上、そんな学生さんたちをのべ何千人と養成してきた中で、卒業と同時に障がい者の地域生活を支える仕事に就いてくれた人が2人いました。しかしその人たちも結婚や子育てをきっかけに一線を退いていると聞きます。

そんな風に密に関われる時間や月日は最初から限られているとわかっている人たちに、学生時代の4年間、私の生活に加わってもらい、そのバトンが途切れないように次の世代を育てるといったことを親元にいるころから今まで続けています。

「なんでそんな大変なことをするの?介護事業所に頼めば、もっと長い年月寄り添ってくれる人材を紹介してもらえるのに」「安定的な人材を確保した方がいいんじゃない?」という辛いご批評をいただくこともしばしばです。

それでも私が学生へルパーをお願いするということにこだわるのには理由があります。大学卒業をきっかけに私の介護からは離れたとしても、彼女たちは次世代の社会を担っていくことになります。

「未来を担う若者達が地域で暮らすという選択肢を選んだ私に関わったことで、重度の障がいを持つ人たちを排除するような社会のつくりかたはきっとしないでくれる」
そういうきっかけになってくれると信じているからこそ、このバトンリレーを続けているのです。

もちろんその時々の私の生活が豊かになったり、ただ若くて純粋な彼女たちと過ごすこと自体が楽しかったり、彼女たちと遠出をする予定ができたり、こういったパソコン仕事もとてもきれいに、スピーディーにはかどったりするので、生活の基本の部分ではないけれど、私にとって重要な事柄をこともなげにしてもらえる目の前の喜びもあります。

毎年卒業の時期には、忙しいなか皆が集まってくれ、私の介護の追い出しコンパを行います。どこに就職したとか、これからどんな生活をするんだといった話を聞きながら、お酒も交えて和気あいあいと過ごすのです。

しかし今年はそれができずに終わってしまいました。コロナ禍でお店に集まることさえできなかった年ですらzoomでオンラインパーティーをしていたのに、実現できず、残念でなりません。

これから夜勤に入ってもらう学生さんに統合課程の資格を取ってもらうための時間を優先したためです。どっちを取るかの究極の選択を迫られましたが、新人を確実に養成して、今までやってきた生活を継続させることを優先する結果となりました。

卒業生たちには丁寧なお礼状をこれまた今の時代らしく、オンラインで送信しました。気持ちは伝わったと思いつつも、良心の呵責に折り合いをつけて2月の末を迎えたのです。

直接の介護をしてもらうことはむずかしくても、この先も彼女たちとの関係性が続いて、学生時代は金銭的な事情でなかなかいけない場所に一緒に行ってもらったり、ちょっと高級なレストランに食事に行ったりできたらいいなと思います。

この歳になるといずれ家族がいなくなり、介護者という立場で私の家に出入りする人たちとの人間関係しかなくなる未来も予想できてしまいます。身の回りの安心や快適さは保障されてもどこか寂しいものになってしまいがちな生活に、彼女たちの存在は潤いや癒しを与えてくれる。そう思います。

学生さんたちからしたら、卒業したらすぐに忘れてしまう存在なのかもしれないのですが、何かのきっかけでふと私の存在を思い出してもらえたらこの上なく嬉しいです。

私自身も歳を重ねるごとに、医療的ケアの必要がなかったり、病気がちでなかったり、骨折のリスクがなかったりという間に、その先の老齢期をどう過ごしていくのかも徐々に考えていかなくてはならないと感じています。

学生さんたちはあくまでも応援団的存在なので、生命に関わるような現場に遭遇させる訳にはいかない。迷惑をかけないためにも、どこかで潮時を見て体制を変えていく必要があると、ここ数年ずっと悩んでいます。

まだ踏ん切りはつきませんが、それをやり遂げることが、私への介護の必要性を理解して学生ボランティアの募集を長年させて下さっている大学の先生方に対する責任であるとも思い、別れの悲しみと共に悩み多き春を迎えています。

同じように若い学生ヘルパーが欲しいと望んでいる皆さんに課題として提起しておきたいと思います。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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