地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記120~家事援助はむずかしい~ / 渡邉由美子

日常生活を円滑に送る上で、ある程度の家事はどうしても必要です。その“ある程度”という感覚は人によって異なります。かなり完璧に近いものを“ある程度”と捉える人もいれば、たいして何もしていなくても“ある程度”成り立っていると考える人もいると思います。

それはそれぞれの性格や価値観に深くかかわっているため、「誰がやっても金太郎あめみたいに同じ」という訳にはいかないのは当然です。頭では分かっていても、自分の力でできない私は「これぐらいのことはやってほしい」と介護者に高望みしてしまうことがよくあります。

「身体介護」は回数を重ねて慣れてくれば、マニュアル的なものができ、どの介護者も同じようにできるようになります。しかし「家事援助」は、介護者個々の性格や価値観で“ある程度”に大きな差が生まれてしまうため、マニュアル化するのは非常にむずかしく、こちらの望む“ある程度”に達しないと、どうしてもイライラが募ってしまいます。

今は日中の障がい者運動や社会参加活動が忙しくなったことを体の良い理由にして、「(本当はいけないけれど)この人に任せておけば作ってくれる」という “お任せご飯”が頼める介護者の日以外は、外食をする機会も多くなりました。

自立生活を始めたばかりの頃は、「もし仮に介護者が見つけられなくても飢え死にしないように」と、ほぼ1日がかりで、自分でレトルトカレーとパックごはんを電子レンジであたためて配膳して食べるという練習をしたものです。

食材をこぼしながらなんとかあたため、食べ終わったときにはヘトヘトになっていたということもよくありました。当時は着替えも自立するための訓練だと考え、Tシャツ1枚を脱ぎ着するのに3時間くらいかけて必死になって練習したことを懐かしく思い出します。

私は掃除や洗濯についてはいささか潔癖症だと多くの人に言われます。私自身はそんなつもりは毛頭なく、それこそ「部屋の中が“ある程度”きれいになっていないとダメだ」くらいの感覚でお願いしているのですが、介護者にしてみたら「由美子さんの求める掃除は、掃除ではなく、大掃除だ」と言われてしまうことも多々あります。

先日も“ある程度”を見誤って、全くといっていいほど調理の経験がないであろう介護者に料理をお願いしたことで事件が起こりました。その日はほうれん草と豆腐の味噌汁を作ってもらい、冷凍の生餃子を焼いてご飯を添えてお昼にしようと考えていました。

もともと外食好きな私は、ふだんであれば、介護者のスキルをそれとなく見極めて「この人に調理は頼めないな」という日は外で食べたり、買い食いをしたりしています。

その日はこの時期にしては真冬のように寒く、雨も降りしきっていたため、家にあるもので食事を済ませたいという気持ちが勝ってしまい、「かんたんな物であれば手作りできるだろう」と介護者に丸投げし、ほかの事務作業にとりかかってしまい、気づいたときには調理をする介護者の手から床に血が滴り落ちているという状況でした。

初心者に任せると決めた以上は、包丁の持ち方や具材の切り方をイチから教えるべきだったのでしょうが、あまりにびっくりしてどう対応したらよいものか悩んでしまいました。

自宅には救急箱はあるものの、大きな切り傷や火傷の手当てができるほど本格的な用意はありません。あわててコンビニに傷パワーパッドを買いに行って、なんとかその場をやり過ごすことができましたが、私の介護に入ってからまだ日が浅い人だったため、「自分がいたところで、由美子さんの役には到底立てない」という劣等感を抱かせてしまい、味噌汁が何とか出来上がった頃には、彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいました。

私自身も「お昼ごはんの調理ごときで、なぜ介護者を追い詰める結果になってしまったのか」と後悔の念にかられ、お互い何とも後味の悪い1日を過ごすこととなりました。

最近私は、以前にもまして体力と気力と時間に余裕のない生活を送っており、介護者との関係性も上手に築けているとは言いがたいのが実情です。こういうことをきっかけに反省こそすれ、活動に勤しむ時間を削ることはできず、悪循環を繰り返し、自己嫌悪に陥る日々です。

健康な心身を維持してなんぼの自立生活であることは重々わかっています。私自身に余裕があれば、介護者一人ひとりとの程よい距離感を探ったり、それぞれの得意・不得意を見極めながら得意な部分をメインでお任せしたりと、いい関係が築けます。

手作り料理を味わう日も適度に作り、衛生的で気持ちのいい環境も保ちつつ、ときには一緒にお茶を飲みながら雑談をしたり、テレビを観たりといった時間も楽しみながら、介護者との関係を潤いのあるものにしていきたいと考えています。

この年齢になって、この先も自立生活を長く続けていくために、「家事援助」は「身体介護」以上に重要ではないかと痛感します。代謝が落ちてきているのに脂っこいものばかり食べると中性脂肪の数値があがってしまうし、味の濃いものを好んで摂っているうちに血圧が上昇してしまいます。

それらを抑える薬が必要になれば通院の回数も増え、ただでさえ忙しい日常生活に支障をきたしてしまいます。少し前までマクドナルドは安価で手軽に買え、かつ一人暮らしの自由を満喫出来ているエンジョイ感もあってとても好きでしたが、若い頃と同じようにはいきません。

桜の花も満開です。「人の集まりすぎない穴場のお花見スポットを見つけて、介護者やふだん障がい者運動でともに闘う仲間とお花見弁当を片手に花を愛でる」。そんな余裕のある春の過ごし方を工夫していきたいと思います。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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