【異端の福祉】を読んで / 佐々木直巳(執行役員 兼 経営戦略室 シニアディレクター)

重度訪問介護の業界には、これまで長きにわたって「福祉は清貧であれ」という社会通念がまかり通っていたという。しかし、そうした情熱を注ぐものの、採算度外視の赤字経営も多く散見され、善意に依存した寄付やボランティアだけでは理想など追えるわけもなく、幾度となく志半ばで多くの事業者が息切れを起こしてきた。そうして人を雇えなくなり、サービスそのものを安定的に供給できなくなるため、結果的には障害者の介護難民を生んでしまうといった悪循環を繰り返してきたのが重度訪問介護の歴史であった。

当事者たちを取り巻く介護問題には、こうした、業界が抱える古くからの社会課題があるにも関わらず、これまでなかなか解決策が見いだせなかったなかで、このような過去を繰り返さない為にも、そして重度訪問介護の早期拡充というミッション達成のためにも、これまでの通念を断ち切って、事業の持続性の手段として、清貧な姿勢にはそぐわないと言われ続けた利益追求を選んだことは、それだけでも偉大な功績だと言えるのではないか。

なぜなら、利益追求を手段に、息切れすることなく、理念経営を推し進めることができる理想的な方向性を見出せたのだからである。今では業界の悩みのタネでもあった人材確保だけでなく、サービス品質の向上や事業規模の拡大が実現可能なものとなり、社会課題の解決に、持続的に立ち向かえることができるようになってきている。

「変えるべきものを変える」という決断は、恐ろしく勇気のいることだったと思う。計り知れない未知の、大きなリスクを自ら背負い、恐れずに立ち向かったからこそ、いまの「土屋」がある。これは異端な事なのだろうか。むしろ時代がこの変革を求めていて、タイムリーに、この時代と与えられた環境にマッチさせたものだと思うので、正統から外れた「異端」だとは思えないのだ。

印象に残ったのは、文中に記された、「生きる指針」として挙げられていたニーバーの祈りの言葉だ。「神様 私にお与えください。自分に変えられないものを 受け入れる落ち着きと 変えられるものを 変えて行く勇気を。そして 二つのものを見分ける賢さを」。

この言葉を指針に、変化を選び、業界のタブーに挑んだ結果として、最後の一文をこのように結んでいた。「介護サービスは当然の権利なのですからあなたらしく生きることをあきらめないでほしい。そのために、私たちはいるのです。」という言葉で決意が表されていたのだ。
不易(変えてはならないこと)にこだわって、しっかりと、変えるべきものを変える勇気を持ち、行動を起こすべき時に実行してきたからこそ、声に出せる、決意と責任のある言葉だと思う。

利益追求となれば、当然激しく変化する企業環境、複雑に絡み合ったステークホルダーとの関係の中で、会社にとって正しいミッション・ビジョン・バリューを描き続けていくことはとても難しいことだと思う。何を変えてはいけないのか、何を変えなければならないのか、これからも目まぐるしく変わる社会環境の中で、社員一人ひとりがこれを理解して、揺るぎない理念のもと、行動に移していかなければならない。

そうして、時代に合った正しい判断ができた会社だけが、社会からの尊敬や信頼を失わずに、発展し続けることができるのだと思う。理念のもとに集まった私たちは、これからも、目の前のものがどちらなのかを見極める「知恵」を持ち、自分と未来は変えられるのだと、勇気をもって、理想を求め続けていきたいものである。

プロフィール

佐々木 直巳(ささき なおみ)
経営戦略室・執行役員

 

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