地域で生きる24年目の地域生活奮闘記141~改めて重度障がい者の就労問題に思うこと~ / 渡邉由美子

物価高が止まらない昨今、生活が苦しいと感じるのは障がい者に限った事ではありません。健常者には社会保障からの所得はないため、食べていくために、一生懸命働くことが求められます。そんな中で、改めて重度障がい者の就労問題について考えさせられる今日この頃です。

 

生活の足しという訳には全くいきませんが、「少しお小遣いが増えたらいいな」という期待と、「どのぐらい稼ぐことができるのだろう」という好奇心とで、若いヘルパーさんたちから教えてもらった”ポイ活”に挑戦してみようと思った時期もありました。

 

結果からいうと、数円から数百円、多くても千円ぐらいの見返りを得るために個人情報や趣味・趣向などの情報を抜き取られていると考えた途端に怖くなり、すぐにポイ活の類は辞めてしまいました。

 

企業側に何かしらのメリットがなければ、動画を見ただけでお金になるとか、レシートの写真を撮って送っただけで金銭が発生するなどという夢のような話はあるはずもないのです。

 

重度の障がいを持っていると一般就労のハードルはとても高く、よほど特殊な能力に恵まれた人でない限り、まだまだむずかしいというのが実情です。ひと昔前と比べたらだいぶ行政の理解も進み、重度訪問介護の制度を用いた在宅就労が徐々に認められるようになっています。これから先の未来を担う若い重度障がい者たちにとっては朗報といえるでしょう。

 

とはいえ一見、重度障がい者が就労を目指せる進化の時代にあっても、私は未だに事務作業で不便を感じることがたくさんあります。今日はそのことについて書いていこうと思います。

 

私の持っているスマートフォンやパソコンのスペックが古すぎるのかもしれませんが、音声入力での事務作業の正確性や利便性は、手動入力に比べてまだまだ劣っていると感じています。

 

一例を挙げると、音声入力機能を使って入力した音声は、小まめに保存をしたり、どこかに保管したりする作業を「あとでやろう」と先延ばしにしてしまうと、いざ内容を聞き返したいと思った時には保存期限が切れてしまい、聞き返すことができないといったことです。

 

これは幾度となく経験しており、聞き返せなくなってしまうのは不便だなと毎回思います。手動での文字入力の場合は削除や送信取り消しさえしなければ半永久的に残るのですから。

 

Eメールが主な連絡手段だった頃は、介護者の手がたくさんあるときに日付と時間を設定しておけば、その日時までに用意しておいたものを相手に確実に送ることができていました。しかし今主流の連絡手段となっている某媒体は、相手のウィンドウに打ったものを置いておくことはできても、複数の文章を分けて次々と同じ人に送りたい場合は一つしか設定ができず、困ることがよくあります。

 

私は障がい者向けの電子機器の開発分野で、どんなに重度の障がいを持つ人でも使いこなせるような機能を追求してもらえたら、もっと日常が便利になるだけでなく、就労につながるという気がしてなりません。

 

私の身体機能では一般就労はまだまだ高嶺の花で、年齢的なことも考えると到底間に合わないように思います。ですが、一人でも多くの重度障がい者が社会保障だけに頼らず、就労の道を選択できる世の中になって欲しいと、切に願います。

 

ちなみに私の情報収集不足で、もし先に挙げた不便さを克服・解消できるものがすでにあるのだとしたら、大変申し訳ありません。

 

いずれにしてもスペックの高い電子機器をそろえるには、初期費用として多額のお金が必要になり、電子機器の操作や扱いに苦手意識をもたない、どちらかというと機械ものの操作に慣れている、大好きという人にしか使いこなせない、遠い世界のもののように私には思えてならないのです。

 

昔あった「写ルンです」という名称の使い捨てカメラのように、現地に行ってからカメラを忘れたことに気づいても、やっぱり写真を撮りたいと思ったら気軽に購入できて、機械ものに疎い人でもかんたんに写真を撮ることができる。電子機器もそんな風に、気軽に便利に使えるものであってほしいと思います。

 

在宅就労は何も電子機器を用いた作業だけではありませんが、内職的な作業は単純なだけに、正確さとスピードを求められ、私のように重度の身体障がいを持つ人たちにとってはむずかしいものです。

 

また内職に使う物品を取りに行く、出来たものを会社に届けるといった移動を伴う仕事も加わります。さらには受け取った内職用の物品を家のどこに保管するかという問題もでてきます。

 

下手をすると内職用の物品に家のスペースを占拠され、車椅子で生活する事そのものが困難となってしまい、地域で暮らすという根本が揺らいでしまうというような、笑うに笑えない事態にも陥るのが重度障がい者の悲しい現実であったりもします。

 

政府は全ての物価が上がり、コロナ禍以上に低所得者が食べていけない現実を鑑みて、国民一律定額給付金の二回目の支給を検討しているというようなことを発表しているSNSもあります。

 

岸田首相の支持率低下の食い止め策ではないかとも言われていますが、もうそろそろ現金をばらまくことで国の赤字が増え、子・孫の世代にさらに大きな借金として残るような施策ではなく、障がいがあっても高齢になっても、働く意欲のある人に平等に就労の機会が提供される世の中に変革すべく、技術と資金を投入する施策を打ちだしてもらいたいと願ってやみません。

 

その施策の一環として、重度の障がいをもつ人にとって使いやすい電子機器の開発も進めてほしいと思います。言語障がいバリバリの発語でも、精度の高い音声入力を実現するAI技術の発展を期待してやみません。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を精力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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