高浜敏之代表が物申す!シリーズ⑪

3周年を迎えて

株式会社土屋は2020年8月19日に創立され、本日、丸3年が経ちました。当社はある種、危ない橋を渡ることを決意した、渡らざるを得なかったという特殊な経緯の中で生まれた会社ではありますが、無事に3周年を迎えることができたのも、土屋グループの従業員お一人お一人のご尽力の賜物です。感謝の意を表すとともに、今後ともよろしくお願いいたします。

はじめに~
ある思想家の死を悼む

先日、ある思想家の方が他界されました。立命館大学の教授で、哲学者・社会学者でもある立岩真也氏です。

障害を持った方が地域で他者の支援を受けながら生活するというライフスタイルは1980年代に始まりましたが、当時は重度訪問介護サービスが制度として確立されておらず、基本的にはボランティアの方に支えられていました。こうした生き方、障害を持った方たちの新しいライフスタイルを初めて我が国で紹介し、その意味や価値を世に伝えていった第一人者が立岩氏です。

我々は今、障害をお持ちの方の生活を支えることで、そのようなライフスタイルを作る側にいるわけですが、まずはそうした生き方があることを知らなければ始まりません。それ故、我々もライフスタイルを作るだけでなく、伝えることの重要性も感じているところですが、立岩氏はそれを最初に行い、かつ障害学という学問分野を創設されました。

惜しくも62歳という若さで他界されましたが、そういった方一人ひとりの貢献があって、今があることをぜひ知っていただければと思います。

私自身、立岩氏と直接的な交流はなかったものの、長らくアシスタントをさせていただいた障害当事者運動のリーダーと立岩氏の対談が行われた際には書記として参加したり、会合等で幾度も面識がありましたので、喪失感も感じております。 立岩氏は思想界の分野でも第一人者でありますが、彼が最も言いたかったことは、ひとえに「人は何の条件もなく、留保なく、生きる価値に値する」ということだと思います。逆に言うと生きる条件、すなわち、こういう人でなければ生きている資格はないという「ものの見方」、―これは意外に広くあまねく伝わっているものの捉え方と言ってもいいかもしれませんが―そういった価値観に抵抗してきた人でもあります。まさにこの重度訪問介護というサービス自体の本質を体現した人であり、彼の想いを皆さんにもしかと継承していただきたく、悼みの想いを伝えさせていただきます。

おわりのおわりと次なるはじまり

3年前の当社の始まりは、我々そして前会社に残った人たちが共に作ってきた歴史の終わりでもあり、当社になってからジョインしてくれた方も多い中では、この記憶を共有している方もいれば、そうでない方もおられます。

もともと私は前会社で事業部長を務め、従業員番号1番という最初のスタッフでもありました。デイサービスから始まり、徐々に重度訪問部門や研修部門が広がっていき、当時は私も全国を飛び回りながらほぼ週5日をビジネスホテルで暮らしつつ、この事業の種植えをしておりました。そうした中で、自分たちが共に作り、参加してきた歴史に一つくさびを打ち込まざるを得なかった、いわゆる分離があったわけです。

当時、すでにサービス提供範囲は43都道県にまで広がり、従業員数も登録ベースでは約1,500名という、相当規模の介護会社でしたが、そうした大きな組織が一度、巨大な分裂をすることになった、私はその火付け役になってしまったということになります。しかし、なぜそういった大きな出来事を起こさざるを得なかったか、それに対する反省こそが私たち土屋グループのアイデンティティの基礎になっています。

つまり、この分裂の背後には問題意識があったわけです。その問題意識の第一がハラスメントでした。当時、ハラスメント被害者の多くから私に訴えがありましたが、加害者に加害意識はそれほどなく、彼らはひとえに自分たちが目指そうとしている目標に向かって邁進していました。私にはそれは暴走と映りましたが、やはり人がなんらかの正当な目標を見てしまった場合、時に鈍感になりすぎたり、残酷になってしまうことがあります。そして、それにより傷ついてきた人たちがいる中で、彼らを放っておくわけにはいかない感覚が強くありました。これが分裂の大きな一つの要因です。

端的に言えば、土屋グループはハラスメントをなくすために生まれた組織と言っても過言ではありません。そこは今までも大切にしてきましたし、今後も大切にしていきたいと思っています。

分裂の二つ目の要因が経営のあり方です。創業者の思想が経営に一定の影響を与える中で、クライアント(顧客)を第一にするか、それとも会社が生み出す利益を第一にするかというバランスの上で企業経営は成り立ちます。ここの重心がどうも利益第一主義になってしまっていた。もっとも、私もその片棒を担いでいたわけであり、自身が自分の過去をしっかりと反省していかなければいけないと思っていますが、そういった利益第一主義の中で、私自身は当時クライアントや、まだこのサービスを受けられていない人にサービスを届けようという思いでやっていましたが、このまま進んでいくと、自分たちの思想やものの考え方―それはまさに立岩氏の思想の継承でもあります―を裏切ってしまう可能性が大きいと。これに抗して、分裂を起こさざるを得なかった経緯があります。

それ故、土屋グループにおいてはバランスが大事であることはもちろんですが、その上で利益第一主義ではなく、顧客第一主義をつらぬくと。ここが私たちが重視する価値観です。

すなわち、ハラスメントがない、安全な場所を作るということ。そして顧客のニーズ、我々が言うところの「小さな声」に応える。この二つを守ることこそが、当社が生まれた意味です。逆に言うと、これに背くようなことを私たちがしてしまうと、そもそもなぜこの会社を作る必要があったのかという問いを立てざるを得なくなる。大きなリスクを背負い、危ない橋を渡ったことの意味自体が危うくなるようなことでもあるので、この二つはこれからも大切にしていきたいと思っております。

このような反省の中で、私たちは3年間歩んできましたが、過去について語ることは、この3周年を持って終わりにし、今後は過去の反省に対する思考ではなく、次なる始まりとして、未来の希望に対する思考の出発点としたいと思っています。

株式会社土屋
代表取締役 高浜敏之

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