【異端の福祉 書評】異端の福祉を読んで〜「自宅で暮らす」を当たり前の選択にするために〜 / 知念知代(ホームケア土屋 沖縄)

異端の福祉を読んで〜「自宅で暮らす」を当たり前の選択にするために〜 / 知念知代(ホームケア土屋 沖縄)

はい、あなたはたった今、病院のベッドで目が覚めました。
見知らぬ白い天井が見え、起き上がろうとすると体が動きません。

突然、病気や事故で自分の体が動かせなくなったら?
悲しくて不安でたまらないと思います。

私の父がそうでした。脳出血で草刈り作業中に倒れ、近所の人に発見され、緊急搬送されました。
「死んだほうがいい」と、父は元気な頃を思い出しては泣き、家族や友人が来て励ます。そんな日々が続きました。

事故や病気で重度の障害を負う可能性は誰にでもあると思います。

脳性麻痺、難病で重度の肢体不自由がある人、強度行動障害のある人など、いわゆる重度障害者の方は、これまで家族が介護を担うか、病院・施設で暮らすことが”当たり前”とされてきました。

自宅で暮らしても家族が昼夜を問わず介護してもらわなければならず、疲弊してしまう。
家族に負担をかけていることを気に病み、自分を責めてしまう。

この国で生きるすべての人が安心して暮らせる社会、「自宅で暮らす」を当たり前の選択にするために、重度訪問介護サービスの全国展開に挑んだ社会起業家の高浜敏之氏、著書「異端の福祉」を読んで欲しい。そして、重度障害を持った方の希望になる事を願ってこの本を紹介したいと思います。

著書「異端の福祉」を読んで最も驚く内容は、重度障害・医療的ケアがあっても「自宅で暮らす」ことができる質の高いサービスを提供していることです!

著書「異端の福祉」で高浜氏は重度訪問介護難民が生まれてしまう5大要因について述べています。
私たち家族も5大要因に当てはまっていました。
私の父は重度訪問介護の対象者だったと思います。

脳出血により、術後、後遺症で左片麻痺と高次脳機能障害(注意障害、遂行機能障害)が残りました。
筋力も低下し、1人では起き上がるのが難しく、リハビリスタッフの手を借り、車椅子に座らせてもらい、長時間、車椅子に座った状態でいるか、ベッド上で過ごしていました。

父が家に帰ったら家族で介護するのが“当たり前”だと思っていました。その為、自宅で暮らすことは難しいと考え、3年ほどリハビリもある施設に入所していました。
体が思うように動かず、リハビリも拒否するようになり、ベッドで寝て過ごす事がほとんどになりました。
ストレスで体をかきむしるようになり、血が出ては軟膏を塗り、「家に帰りたい」と何度も訴えていました。

「リハビリを頑張って自分で立ったり座ったりできるようになったら帰ろう」と私達は励ましていました。
そんなやりとりを繰り返しているうちにボーっとするようになり、無気力のような感じで何も言わなくなりました。家族のこともわからなくなってしまって…。

孫を連れてきても「こんにちは」と言って他人行儀な笑みを浮かべ微笑んでいました。私が孫だと説明してもピンと来ていない様子で、「やーん(そうなの)?」と言ってはまたボーっとする感じでした。
あの時、重度訪問介護サービスがあることを知っていたら、もっと早く家に連れて帰っていたのにと、今になっては思います。

「自宅で暮らす」こと。それは当事者に奇跡を起こします!
私の父は現在、自宅で暮らしています。
父は3年施設に入所している間にボケてしまいましたが、家に連れて帰って来ました。
念願の自宅に帰ってきたら、記憶を取り戻すのではないかと思ったのです。

しかし、父は自分の家ということにも気づかない様子で家族のこともわからない状態でした。
デイケア(通所リハビリテーション)に行く時や帰ってきた時に介助がないとベッドに移す事も難しい状態で、重度訪問介護を知らなかったので、部分的にヘルパーに来てもらっていました。

ただ、持病持ちの母ではおむつ交換も体位交換もできる体力が無く、18:00〜8:00まで放置された状態でした。デイケアのスタッフから床ずれができそうだと知らされました。
やっぱり自宅に連れて帰ってきたのは無謀だったのかなと思いました。

しかし、しばらくすると他人と喋っているようだった会話にも変化が現れ始めました。
父:「えぇっ!草刈り行くから軽トラ取って来らせ(持ってくるように言って)!ヒージャー(山羊)がメーメー言ってる(エサくれと鳴いて待ってる)」と言うのです(笑)

私:「お父さんここがどこだかわかるの?」
父:「当然やさ!」
私:「じゃあどこね?」
と聞くと言葉で表せないけど、自宅だとわかっていて、名前は思い出せないけど娘という事はわかっているようでした。

本来の父の話し方をするようになり、自分のやりたい事を話しているうちに家族の名前も出てくるようになりました。

父もやる気満々でリハビリにも参加するようになり、自費でもいいからとヘルパーに長い時間いてもらい、トイレ介助を手伝ってもらいました。声かけとズボン上げ下げの手助けは必要ですが、手すりを使ってトイレで立ったり座ったりできるようになりました。
今では四点歩行器で10メートル歩けるようになりました。

「自宅で暮らす」ことは当事者にパワーを与えてくれます。
“やりたい”という気持ちが父をここまで回復させたんだと思います。

住みなれた自宅で最後まで過ごしたい!
大切な家族と一緒に少しでも長く過ごしたい!

この本を通じて「重度訪問介護」の認知度が高まって欲しい。そして、重度障害や難病があっても「自宅で暮らす」ことを諦めず、相談し続けてほしいと思います。

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