【異端の福祉 書評】「異端の福祉」を読んで / 井上早織(あぐり工房土屋)

「異端の福祉」を読んで / 井上早織(あぐり工房土屋)

私自身が順風満帆な人生を歩んできていないせいか、高浜代表の本を読んで、心の底から共感する部分が多く、そして、運と縁とタイミングで「土屋」という会社と出会い、土屋の社員になれたことを心から有難く思えたというのがストレートな感想です。

本の中で、特に印象に残っているのが、41ページ、当時の高浜代表が木村氏から「クライアントに理不尽なことを言われたとき、どう対応しているか」と質問された際、高浜代表が素直に「適当に受け流しています」と答えられ、それに対し木村氏が「障害者をバカにしているのか!」と一喝され、木村氏と激論後「そう、そういう風に言い返してほしい。なぜなら介護の場は、私たちにとって他者との関係を学ぶ大切な場所だ。学び合うために私達は一緒にいるのだから・・・ともに在り、ともに幸せをつくっていく場なのだから」

ここを読んだとき、思わす本を閉じて、「ほんとうにそう思います!」と、心で叫びました。

私がこの仕事(障害者の就労支援)に魅了された理由も「ともに在り、ともに幸せをつくっていく場」と感じているからです。そして、就労訓練の場も、日ごろ社会とのかかわりが少ない障害者さんにとって「他者との関係を学ぶ大切な場」と言えます。

重度訪問介護も就労訓練の場も、障害があるかないかとか、支援する側される側といった線引きではなく、お互いが人として、互いの個性を受け入れ、ときには向き合い、互いに気づきと学びを感じながら共に成長し合える場(職場)として捉えることができれば、もっと深い気づきと学びが得られ、よりやりがいを感じる有意義なものになると思います。

これからも私は一つ一つ丁寧に向き合いながら、たくさんの気づき学びを得て、心豊かに年を重ねていきたいと、この本を読んで改めてそう思いました。

次に心に残ったのが、78ページの『重度障害者にとっての「自立」とは何か』というテーマ。「重度障害者にとっての自立とは他者の介護を受けながらでも、人としての尊厳を手に入れ、その人らしく生きることができれば、それは自立なのです」というところです。

このことは、重度障害者に限ったことではないと思います。他から干渉されることなく、自分で自分のことを自由に決める権利をもつということは、「リスクを負う自由」でもあるということ。

これは、私が経営者という立場だったとき、つくづく、しみじみ「リスクを負う自由」と、その代償といえる「義務と責任」を常に感じていたので、とても共感を抱きました。

高浜代表の言われる「リスクを負う自由」というのは、ときに苦悩が伴うこともあるかもしれません。けれど、その苦悩の先に手に入れた自由というのが、「尊厳を手に入れ、その人らしく生きる」ということのように思います。

私自身、「リスクを負う自由」な世界で常に自分で選択しながら生きた結果、今があり、過去を振り返ると、ときには選択に失敗し、周囲にも迷惑をかけ生きてきたと思います。ですが、失敗からたくさんの気づきや学びを得て、「今の価値観」と「自分らしい人生」を歩めているとも思っています。

ある時、精神的に追い詰められ、病んでいた時に通った精神科の先生が私にこう言いました。「ALL OKなんですよ」と。自分のことも、相手のことも、自分に降りかかる様々なことも、すべてALL OKなんだと。

思いつめていた当時、この言葉を聞いた瞬間、ぎゅっとなっていた心が楽になったのを覚えています。すべてを受け入れ「ALL OK」と思えるようになるには、ときに難しかったり、時間がかかったりしますが、それも「ALL OK」。これを意識するようになってからは、いろいろな物事の見方が変わりました。

すべての人が、人としての尊厳を手に入れ、その人らしく生きていける社会になるためには、世の中がもっと「ALL OK」になって、自分と違う価値観や生き方を受け入れられるようにならなければ難しいとは思いますが、そんな社会になるために、自分でもできることはたくさんあると思います。

私はこの仕事、今の職場を通して、多種多様な価値観や考え方を持つ人材一人ひとりの能力やスキルが認められ、組織で個人が活かされる環境(ダイバーシティインクルージョン)を少しずつ広げていきたいと思います。

最後に、この本を読んで新たな想いが湧きました。それは、この小さな町・名張で、さらに多様な声、小さな声を拾えるよう、重度訪問介護もそうですが、様々な事業を展開することです。

他人ごとではなく、我がごととしても、誰もがどんな状態になっても、自由な選択ができる人生を歩めますように、今いる場所で土屋の社員として、高浜代表の想いを形にしていきたいと思います。

たくさんの感謝をこめて

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