地域で生きる/21年目の地域生活奮闘記㉙~人に伝えると伝わるの違いは大きい 後編~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

前回に続けて今回は、対面による介護現場を想定した実技演習の様子を伝えていこうと思います。

本来、この資格を取った後に入る利用者様が決まっていれば、そこでその人に必要な介護を積み重ねて実地研修した方が身に付けたいスキルやコミュニケーションはより現実的に養われ、現場定着もスムーズなのは言うまでもありません。

この重度訪問介護という資格を取りたいと思う時点で利用者様が確定しており、新しい介護者を受け入れられる環境もあれば、最近は現場に直で行って関係性を作るという実習スタイルもあります。

しかし、働く事業所は決まっていても利用者の特定までには至っていない方や、もう既にボランティアなどで支援が先に始まっていたりするパターンも稀にあったりする中で、有資格者になるための重度訪問介護研修3日目を行わなければならない方もいます。

私は主に、その3日目の研修を受けてその日のうちに有資格者になりたい人たちに向けて、自分の生活を基礎に置きながら、他の仲間の事例も織り交ぜて、できる限りリアルな現場像が思い浮かべられるようにということを常に頭に置きながら研修をしていきます。

対面の良さを活かして座って話を聞く座学的な時間は出来るだけ少なくして、立って動いて学んでもらうことをマストな目標としています。

健常者同士の研修では、いくら利用者役と伝えてあっても介護者役の人に無意識のうちに気を遣い、身体が自然に重みを軽くしたり動作のやりやすい方向に身体を向けたりと、何らかの協力的リアクションをしてしまうと思うので、真の重度障がい者である私が実技的なことに参加することによって、本当に洋服を一枚着るにも四苦八苦したりする様子を肌で感じてもらう研修としているのです。

前半はまず3つ、上着の着脱、プリンとお茶を使っての食事介助の練習、歯磨きの実習と、日常生活に即した介護を行います。その間に私はその日に集まっている受講生の雰囲気や、経験者か未経験者かどうかなどを直感的に判断し、休憩をはさんだ後のより深い実技講習に結びつける導入としていきます。

上着の着脱も何ら普通の人が行うことと変わりはなくても、普通の人の様に関節を伸ばしたいと思う時にうまく伸びないとか、少しバランスを崩すと身体が左右に倒れていくとか、そもそもどこまで介護者が他動的に身体を動かして問題ないのか、関節の可動域はどのくらいあるのか、といった基礎情報が出会ったばかりで何もない状況で自分の番が回ってくると、何でもないことがたいそう大変なことを頼まれたように誰しもが感じるものです。

たくさんの受講生が見ている前で着せたり脱がせたりするというだけですごく特別なことと思ってしまうのか、手が震えて余計にうまくできなくなってしまう場面も多々見受けられます。

食事介護も今のところ私は特別食べるということに配慮のいる状況ではありませんが、どのくらいの分量を口に運んだらよいのかなど指示が出る前に様々思いを巡らせてしまうようです。

歯磨きも人の口の中に手を入れることに抵抗を感じたり、強さはどのくらいがいいのか、うがいのタイミングはいつなのかと、考え始めたりすると手がうまく動かなくなるようです。

一つ一つの項目にただ動作をやるだけではなく、どういう意味があるのか、どのような障がいの人を対象として今話しているのかの解説をつけていきます。

私は脳性麻痺の痙直型というタイプの障がいを持っているので、脳性麻痺を中心事例として、同じ脳性麻痺でもこんなことに気をつける必要がある人がいるとか、人それぞれ個性のように障がいの出方が違うので、コミュニケーションによってその人が求めている介護の在り方を探っていくことが一番重要な重度訪問介護におけるポイントであることを伝えていきます。

コミュニケーションも言語障害や知的障害という壁など様々存在し、それ自体が聞き取れたらかなりの信頼関係が築けるレベルになっているということを実際の事例を挙げて受講生を順番に指しながら研修を進めていきます。

後半はガラッと趣向を変えて、電動車椅子の機能の説明をしながら介護用リフトのベルトをつけてもらい、車椅子上でトイレの介護ができる装置を使って私が実際に吊り下がっている所をみてもらう研修を行っています。

車椅子に備えた機能を活用することで、できることの幅が広がることや、諦めなければ社会参加活動も夢ではないことを伝えていきます。

次に、外出時に雨が降ったときに使う車椅子用レインコートを見せて実際のイメージを作るために着せてみてもらったりして、障がい者=家にいる人という一般的イメージを変えてもらうようにしています。

その他にもベッドに2人介護で移乗させてもらって寝ている姿勢を見てもらうことで、1人の障がい者でも場面によって障がいのイメージが変わることを見てもらいます。
最後に感想や質問を聞いて、現場に入る心構えをしてもらうようにしています。

このような活動を地道に続けていく事で、介護保険の介護者になるのでなく、重度な障がい者の生活をともにつくっていこう、支えていこうと思って長年介護を続けてくれるような、質のよい介護者を1人でも多く増やしていく努力をし続けていきたいと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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