本の出版について④ / 浅野史郎

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

2009年6月、ATL(成人T細胞白血病)を発症し、治療のため東京大学医科学研究所附属病院に入院した。その後、国立がん研究センター中央病院に転院して骨髄移植を受けて、2010年2月に退院。退院してしばらくした頃、旧知の岩波書店の山本賢さんが「闘病記書きませんか」と言ってきた。

書くつもりだったが、ふつうの闘病記にはしたくなかった。白血病になったことは運命だ。「運命」という共通項でくくれる他のことも一緒にして書きたいと思った。「他のこと」とは、障害福祉課長になったこと、宮城県知事になったことである。

闘病記を書くのに、あまり苦労はしなかった。入院中に「闘病日記」をつけていたので、そこからの引用が使えた。「夢らいん」に時々載せていた報告からも引用できた。そもそも分量が少ない。「運命を生きる〜闘病が開けた人生の扉」は岩波ブックレットNo.835として2012年5月9日に発刊された。内容80頁の薄っぺらな本である。

薄っぺらだから読みやすい。値段も560円で買いやすい。だから売れ行きが結構いい。闘病中の人たちからの受けがいい。書き下ろしであり、私としても愛着がある。浅野史郎の愉快な人生を凝縮したような本である。私の本の中ではベストと思っている。

出版パーティも今までで一番楽しい。これもベストであった。浅野史郎の病気回復を祝う会でもある。パーティの様子を詳細に紹介する。

2012年5月19日、東京日比谷のプレスセンターホールでの集いには243人が出席。第一部は「ミニシンポ」。呼びかけ人の皆様から、一人5分の超短めの講演をいただいた。呼びかけ人代表の田島良昭さんから始まって、小山内美智子さん(本の帯に文章を寄せてくれた)、黒柳徹子さん(5月31日放映の「徹子の部屋」のPRも)、田野崎隆二さん(私の主治医、骨髄移植担当)、寺島実郎さん(日本総研会長、私が尊敬する知の巨人)、原真人さん(朝日新聞記者、県庁記者クラブを経験)、南克己さん(ATL患者仲間)、村木厚子さん(私の闘病期間と冤罪での勾留時期が重なり、運命を共有)の話が続く。

第二部の懇親会では、長崎瑞宝太鼓の演奏がプレゼントされた。全員知的障害のプロ集団である。スピーチの場面では、内丸薫さん(東大医科研入院時の主治医)、菅付加代子さん(HTLVをなくす会代表、鹿児島)、山本賢さん(岩波書店、今回の本の編集担当)、吉原健二さん(厚生省年金局長、事務次官。厚生年金基金連合会時代の上司)から、それぞれ心のこもったご挨拶をいただいた。

この出版パーティから5年が経った。「しばらくぶりでパーティやりたいな」と思い、ぶどう社の市毛さやかさんのところに書き溜めていた原稿を持ち込んだ。「これで本作ってください」と頼んだのだが、断られてしまった。「先代社長の方針で、うちは障害福祉以外の本は出さないことにしています」というのだから仕方がない。先代社長の市毛研一郎さんは亡くなっていて、娘のさやかさんが後を継いでいた。

本づくりは諦めよう、パーティもできないなと観念した私に、「浅野さん、障害福祉の対談集作りませんか」と市毛さやかさんから提案があった。「おお、その手があったか」と息を吹き返した私は「やろうやろう、面白そうだ、対談相手はすぐ思いつくぞ」と応じた。

「輝くいのちの伴走者〜浅野史郎対話集」はこうしてできた。対話の相手は年齢順に、日浦美智江(重症心身障害のある子どもたちに導かれた人生)、田島良昭(理念と行動力が光る長距離ランナー)、中澤健(障害福祉専門官からマレーシアへ)、小山内美智子(相思相愛の不思議な関係)、北岡賢剛(愉快な男が世界を変える)の5人。私はこの本を「拙著」とはいわない。5人の対話者のおかげで素晴らしい本になった。企画し大変な編集作業をこなしてくれた市毛さやかさんのおかげでもある。

2016年11月18日の出版パーティは、「障害者のリアル×東大生のリアル」(野沢和弘編著)と「輝くいのちの伴走者」が一緒になって東京日比谷のプレスセンターホールで開催した。こんな「一緒になって」の出版記念パーティは初めてである。これはこれで、印象に残る。楽しかった。

次回に続く

 

◆プロフィール
浅野 史郎(あさの しろう)
1948年仙台市出身 横浜市にて配偶者と二人暮らし

「明日の障害福祉のために」
大学卒業後厚生省入省、39歳で障害福祉課長に就任。1年9ヶ月の課長時代に多くの志ある実践者と出会い、「障害福祉はライフワーク」と思い定める。役人をやめて故郷宮城県の知事となり3期12年務める。知事退任後、慶応大学SFC、神奈川大学で教授業を15年。

2021年、土屋シンクタンクの特別研究員および土屋ケアカレッジの特別講師に就任。近著のタイトルは「明日の障害福祉のために〜優生思想を乗り越えて」。

 

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