土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉝ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

33 土屋の12のバリュー⑨

私たちは何事も話し合って決めることを信条としている。取締役が集う経営会議も週2回欠かさず実施している。経営に関わる重要事項の決定から日常的な業務における意見のすり合わせまで、独断によることなく、話し合って決めようと約束した。その約束は以下のバリューに由来する。

対話こそ生命線、責めなじることは禁物です

対話の不在は組織にとって「死に至る病」と考えている。横の関係、個人間においても部門間においても、スタッフとマネージャー、マネージャーと経営陣の縦の関係においても、よりよい判断や意思決定において、対話は不可欠だ。どんなに経験豊かな人であっても、どんなに知識豊富な人であっても、どんなに洞察の深い人であっても、限界や盲点や見落としは必ず存在する。それらが存在するにも関わらずないことにする心理的スタンスを、私たちは「傲慢」と呼ぶ。自分には限界があり、必ず気づいてないことがある、という自覚が、「謙虚」な姿勢をもたらす。この「謙虚」は、発展や成長の絶対条件であり、対話の出発点に私たちを連れていく。

他者からいろいろな知識や技術を吸収し、成長に対して貪欲である人は、「謙虚」であらざるを得ないだろう。一方自分の発展や成長や未来への希望を抱くことができないとき、私たちは自己防衛のための「傲慢」に陥ってしまう。自尊感情と「傲慢」は似て否なるものだ。むしろ対極にあるといってもよいかもしれない。自尊感情の深さは自分を他者に開き、対話を可能にする。一方不安の裏返しである「傲慢」は、他者から自分を隠し続ける。「傲慢」から解放され、対話に開かれるためには、まず自分をケアする必要があるかもしれない。

また同じ意見の人たちと呼応しあい、共感しあい、一体感を味わうのは、真の意味での対話とは言えない。ダイアローグの形をしたモノローグといってもいいかもしれない。他者との差異や微差から、対話はスタートする。異なる意見を持った人と出会い、心理的反発や時に敵対心を感じながらも、妥協点や調和に至る道はないか共に模索することとその努力の中に、対話の本質があると考える。自分自身の思考や信念を大切にしながらも、それと同様に他者の思考や信念も尊重しつつ、自分自身のそれを客観視し、相対化し、時に批判的に考察することの過程に、対話の実りがある。

それと対極の姿勢が、「責めなじる」という行為だろう。違う意見や異なる姿勢を、その本質や背景に対して全く想像や洞察をすることなく、「自分と違う」という理由だけで「責めなじる」ことは、まったく対話的ではない。そのように他者に対して自分を閉ざし続け、自分の思考に安住し続けようとするあり方は、社会事業家やケアワーカーに求められるモラルに反するとさえ思える。他者を責めることにより私は私が変化する必要から解放される。実に楽なことであり、逆に対話をし続けようとすることは険しい道が予想される。忍耐と努力と克己が求められる。

だからこのバリューは、私たちが私たち自身に安楽の道ではなくあえて厳しい道を歩むことを課すという宣言といっていいかもしれない。思考や配慮や気づきを総動員して他者と対話したその先に、葛藤を乗り越えたその向こうに、新しい道が続いていると信じている。組織はほっておいてもうまく回るとは全く思っていない。私たちが進む先には、様々な陥穽や地雷が存在するに違いない。常に自分たちの動きや進むべき方向性に対してマインドフルであり続けなければ、油断するとすぐドツボにはまってしまう。

だから私たちはヴィパッサナ瞑想者が自分自身の呼吸や動きや思考に注意を向け続けるように、この組織の動きや流れや歪みを観察し続けたい。そのためには、対話は不可欠だ。対話とは組織の生存戦略の本質をなすものであり、私たちが「自分は正しい、変わる必要はない、だから対話などという面倒なことはできるだけ省いていきたい」という閉じた思考に嵌まってしまったら、しなやかに変化しながら展開していく組織の未来は期待できないだろう。

繰り返す。私たちは他者を責めなじることはしない。なぜならば、「責める」ことからは何も新しいものは生まれないからだ。責められれば責められるほど人は身を固くし、耳を閉ざしてしまう。罪悪感に基づき自己弁護と自己正当化が反復されるだけだ。糾弾からは、より良い未来に向けた生産的な思考や行動が始まることはない。責めるのではなく問いかけること、責めるのではなく提案すること、責めるのではなく気づきを表現すること、そんな風にして私たちの対話カルチャーを育んでいきたい。

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

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