地域で生きる/21年目の奮闘記㊻~重度訪問介護と介護保険は全く違う制度であることを知ってください・中編~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

前回の私の「重度訪問介護と介護保険は全く違う制度であることを知ってください・前編」のブログでは、日常生活が困難となっているがゆえに緊急入院となってしまった重度障がいを持つ方の住む○○市に、入院時での24時間介護を求める働きかけを行い、実際には思うような市の回答を得る事が出来ず、○○市が恒久的な24時間介護を頑として認めないということについてお話していきました。

中編では、実際に○○市がそのような回答をする理由についてお話していきたいと思います。

私たちの制度交渉に一点張りの回答を続けるのは、交渉に出てきている課長や係長級の職員が、高齢者の介護保険と、重度の障がいで日常生活全般に渡る見守りを含めた介護である重度訪問介護という制度の違いを、全く理解していない事実があったことです。

そもそも、介護保険というのは2000年に高齢者の介護問題の解決を目的に家族介護の負担軽減を目指して作られた制度であり、その運用基準を、そのまま障がい者にも21年間適応して、障がい者福祉サービスが提供されてきました。その制度を適用している限りは、24時間介護などあり得ないのは当然という事になってしまいます。

そして、介護保険という制度は、必要に迫られたことだとしても各自の判断ではやってはいけないとされることもここには書ききれない程沢山あるのです。例をいくつか挙げると、家族と同居の場合、家族の食事作りや洗濯はしてはいけないことになっていたり、支援する時間は最長2時間でそれ以上は連続で介護者にいてもらうことは出来ないということが挙げられます。

よくある話として、介護者が家を訪問して利用者が転倒していても助け起こすと介護保険の点数をたくさん使ってしまい、月末に足りなくなってしまうので、ケアマネージャーさんに相談しないと助け起こせないなどという人道的にあり得ない制度設計であることもあります。

高齢者でも現行の介護保険サービスで決して良い訳ではありません。ましてやそれを行政側は最善の福祉サービスと心得、重度の障がいを持つ人にそのまま当てはめて長い年月が経過し、今回のような緊急入院騒ぎが起きても尚、介護保険を遵守する障害福祉サービスのあり方が間違っていると訂正することもなく今日に至っているのです。

そのため、これから○○市で行われている障害福祉サービスのあり方を巡る交渉から始めていかなければならないということなのです。重度訪問介護とは、というレクチャーをなぜか民間運動団体の私たちが一からかみ砕いて教え制度の改正を求め、その土壌に立って初めて上記の緊急事態にある当事者をどう地域で安心して安全に暮らせる体制を築いていくかという観点の働きかけから行っていく必要があることを、私たちが改めて認識した緊急交渉となりました。

何年もかけて行政機関に重度訪問介護の制度を作らせてきましたが、ここまで重度訪問介護と介護保険の違いが知られておらず、介護の必要な人=介護保険利用者と思いこまれてなんの疑いも持たないで、その方が経費が抑制できて良いと言わんばかりの行政運用をしている事実は本当に衝撃的なものでした。

それでもこのような制度の運用をしているのは○○市だけではないのだと思います。現に、この制度の根本を作ってきた脳性まひ者・全身性介護人派遣事業のことを現役の東京都職員と突き詰めて話す場を設けると、現役の職員は紙の上でこの制度を作ってきた原点を学んではいるのでしょうが、核となる部分は理解できていないので介護保険と混同して私たちから見れば全く違う見解を話されることが多く、原点の東京都ですらも今年夏に改めて介護保険と障がい者総合支援法のもとで行われている重度訪問介護は全く違う制度であり、介護保険の法令を準用しないものとする、という通達文を市町村主管課長会議の席で周知徹底し、その後各市町村に対しても不当な行動制限や外出制限につながるようなことは定めないよう留意した運用をされたし、という公式文書を出しました。

私たち重度障がい者は、温泉に行けば介護者の技術やマンパワーの確保さえできれば身体や精神の疲労をやわらげることができたり、プールに行けば水に入っているだけでも全身運動になるため、身体の筋緊張が高い人たちには有用だとする医学的見地もあるにも関わらず、プールや温泉などに行くことは介護の困難さから出来にくいため、自分にはできないと思い込んだり、制度上も認められていないと考えたりする当事者は少なくないのが現状です。

このような誤解も当事者や支援者に対して解くことができるように、厚生労働省にも今後も働きかけて、制度の改善に関する交渉を行っていきたいと思います。これから冬になるにしたがって障害当事者は身体もきつい中ではありますが、闘い続けていかねばと強く思う出来事でした。

後編では、最初とても厳しい見解であった○○市が少しずつ交渉によって実態の理解を深め、歩み寄りを見せ、私たちに相談のあった生活改善を必要とする個人の方については改善がみられた事例についてお話していこうと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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