土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
11月に『梅切らぬバカ』という映画を観てきました。知的障がいを伴う自閉症の50歳の男性が地域の中でいかに自立するのかということをテーマとした映画でした。
自閉症の特徴をなかなかリアルに捉え、描写してある部分には、監督や作者の正しい自閉症への理解を促そうとする努力を感じました。
現実的に起こっている問題として、自分と関係のない場所で話し合われる時にはどんな障がいであっても地域で暮らせるのが当たり前だという理想論を語る人はたくさんいます。
しかし、その人たちが住む場所が自分の部屋の隣の部屋とか同じ建物内という具体的な話になってくると、心から本当に受け入れてくれる人はまだまだ少なく、障がいの特性として大きな声が出てしまうとか、一般の人には理解しがたい様々なことが激しくなればなるほど、受け入れられないで人里離れた入所施設を選ばざるを得なくなってしまうのです。
それは何も、知的障がいの人たちに限った話ではありません。
私のように、家の中も電動車椅子をタイヤを拭いて使用しながら暮らさなければならない状態であるとか、介護用リフトの設置が無ければものからものへの移乗ができないと家の躯体に傷が付くと言われ、家を借りることが出来にくくなってしまいます。
何故かと言えば、半土足で生活をすれば、家の床が汚れる、家そのものが傷む、そして、麻痺のある手で電動車椅子を操作すれば、壁にぶつけて傷をつけたり、穴を開けたりしてしまう可能性が高いので、家の寿命や、ひいては地価が下がると本当に思っている人が未だに多く、自立生活や地域でのグループ生活の選択肢は住居確保というところから困難を極める結果となります。
私たちの先輩の世代は、百件の不動産屋さんに入居を断られた経験を持っています。それでも、百何十軒目かで一軒、貸してくれる家が見つかったことで次から同じことを目指す当事者仲間は、その先輩よりは住みやすくなるのです。そんな「継続は力なり」の4、50年の積み重ねが地域で生きる道を切り開いてきたのです。
この映画は、そして、いわゆる8050問題と言われる介護問題を主たるテーマに扱っています。これは80歳を過ぎた親が50歳代の障がいを持つ娘や息子の介護をするということです。この50歳の自閉症の息子はどうなっていくのか…障害を持つ子供がやむを得ず親元で暮らしても、その状態が永遠に続けられるわけでもない中で、どのように周辺の支援者や親、そして本人が行動していくのか、とても気になる作品でした。
そして、その地域生活を重度訪問介護等の制度で覆いながら支えていくことは、知的障がい者にも可能な時代となってはいますが、専門性のあるマンパワーが現在でも不足しているので、その問題をどうクリアするのかということもとても考えさせられる状態で、私の中で完結しない作品でした。
この映画はあくまでも一般ロードショー映画であり、知的障がいの人たちが親の加齢に伴い、地域で今まで通いなれた作業所に通いながら、親元を離れて地域で暮らすことを可能にしたいと思っている支援者も含めた当事者がたくさんいることをまず、知ってもらう目的の映画だと思いました。それなのに、問題提起の部分が少し曖昧で残念に感じました。
せっかく、自閉症のこだわりやパニックについての描写をあそこまでリアルに再現したのであれば、もう一歩踏み込んで知的障がい者の自立ということが可能な時代になっていることを、この世の中に知らしめてもらえればより良かったと思います。
重度な障がいを持ちながらの地域生活はまだまだ発展途上なので、建設の段階で反対運動が起こったり、実際に住み始めてから、近隣住民とトラブルになることは往々にしてあることではありますが、それを解決して地域で生きる道が広がっていることを伝えて欲しかったと私は思います。
知的障がいの方々の自立の大変さとは、こだわりを捨てられない時にパニックになってしまったり、金銭の管理が自分ではなかなか難しかったり、生活の全てに見守りや声掛けが必要であるなど、生活の困難さにそれぞれの特徴があることも知らない人にもう少し伝わる状況であれば良かったかなと思い、もったいない気持ちになりました。
何年か前は、重度の筋ジストロフィーの人が制度の無い中で自立する様子を描いた『こんな夜更けにバナナかよ』という映画も一時期、世の中の話題にはなりました。
とにかく、一般の人にとっては、障がい者はどんな障がいということは関係なく、病院や施設にいる人と思われているのです。
そんなことから考えれば、内容に多少のツッコミどころがあっても、一般ロードショー映画を放映する映画館で放映されて目にふれる機会が増えるということだけでも評価しておく必要はあるようにも思いました。
相変わらず全国の重い知的障がいの人々を入居させ、一生そこで安心安全に暮らせるとされてきた入所施設で虐待事件の報道が後を絶ちません。
そんな状況を一日も早くどんな障がい者でも地域で暮らすという選択肢が容易に選べる体制を作っていきたいと思います。
◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生
養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。
◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動