経営戦略としてのSDGs ~3.CSRのテーマ集としてのSDGs~ / 影山摩子弥

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

前回の解説の際、SDGsに関する企業向けの手引書である『SDG Compass』に触れた。GRI、国連グローバルコンパクト、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が作成した文書である。平易に書かれた30ページ程度のパンフレットであり、SDGsの概要が分かるので、企業人でなくとも読むとよい。以下のURLに日本語版が掲載されている。

そこでは、企業にとって「将来のビジネスチャンスの見極め」「企業の持続可能性に関わる価値の向上」「ステークホルダーとの関係強化」などのメリットがあることが書かれている。つまり、社会的に意義のある取り組みが企業にとって、新たな事業機会やコスト削減、ステークホルダーとのコミュニケーション、社会的評価というメリットにつながるのである。つまり、SDGsは、企業からすれば「CSRのテーマ集」なのである。

社会セクター側の代表格ともいえる国連が、企業側のメリットを謳うことに違和感を覚える向きもあろう。しかし、企業は市場の厳しい競争の中で収益を上げ経営を継続せねばならない。大企業でさえ厳しい経営状態に陥ることある。その中で、経営的に意味のないことを行うことは難しい。

一方、CSRは、社会にとって意義のあることが経営の持続可能性につながるというフレームワークであり、社会のメリットと企業のメリットの両立が可能であることを示す観点である。社会にとってもメリットがあることが積極的に取り組まれた方がよいはずである。

国連のこのようなアプローチは、CSRに対する誤解を解くためにマイケル・ポーターが「戦略的CSR」という表現を超えてCSV(Creating Shared Value=社会と企業が分かち合える価値を生み出そう)を提唱したり、2015年改訂でISO9001/14001が「組織の目的」と「利害関係者のニーズと期待」に着目させようとしていたりなど、CSR的構図の重要性が認識されてきたことも背景にあるように思われる。

もう少し解説しよう。ゴール8「働きがいも経済成長も」には、「経済成長」や「中小零細企業の設立や成長」が含まれている。ゴール7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」に関しては、効率の良いクリーンエネルギー技術を開発すれば、企業の収益事業になるであろう。

しかし、それだけではない。貧困や飢餓、ディーセントワーク、障がい者雇用、人権、環境問題といった社会課題に取り組むことは、企業にとって収益、顧客の評価、従業員のやる気、新製品の開発などを生む可能性がある。社会課題に取り組むことによって経営上の効果を引き出す取り組みを、私は「社会性戦略」と呼んでいるが、SDGsは社会性戦略のネタなのである。

さらに、グローバルに活躍する大企業にとって、世界に散らばるステークホルダーの関心事はあまりに多様である。すべてに応えられない。しかし、SDGsに取り組んでいれば、世界共通の課題に応えていると説明できる。

また、マイケル・ポーターのCSVは、ソーシャル・ビジネス(SB)に矮小化される話ではないが、CSV以降、新たなビジネス領域としてSBに着目する企業が増えた。しかし、社会課題は無数にあり、その収益事業化も簡単ではない。その中で、重要な課題を絞り込んで国連が示してくれたのである。

さらに、中小企業にとっては、顧客企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)に対応できる。自社の取り組み水準の高さを示すこともできるし、顧客企業のSDGsとの対応を示しやすい。さらに、自社が世界の課題に貢献していることを社員が実感できれば、会社に対する求心力や仕事に対するモチベーションも上がるに違いない。

SDGsは、CSRであり、その中でも特に社会性戦略の面が大きい。それを理解して取り組みを進めることが重要である。

◆プロフィール
影山摩子弥(かげやままこや)

研究・教育の傍ら、海外や日本国内の行政機関、企業、NPOなどからの相談に対応している。また、CSRの認定制度である「横浜型地域貢献企業認定制度(横浜市)」や「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度(宇都宮市)」、「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を担い、地域および中小企業の活性化のための支援を行っている。

◎履歴
1959年に静岡県浜北市(現 浜松市)に生まれる。

1983年 早稲田大学商学部卒。

1989年横浜市立大学商学部専任講師、2001年同教授、2019年同大学国際教養学部教授。

2006年 横浜市立大学CSRセンターLLP(現 CSR&サステナビリティセンター合同会社)センター長(現在に至る)

2012年 全日本印刷工業組合特別顧問 兼 CSR推進専門委員会特別委員(現在に至る)

2014年 一般社団法人日本ES開発協会顧問(現在に至る)

2019年 一般財団法人CSOネットワーク(現在に至る)

◎専門:経済原論、経済システム論

◎現在の研究テーマ:地域CSR論、障がい者雇用

◎著書:
・『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)
・世界経済と人間生活の経済学』(敬文堂)

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