土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
数年前、ある動画でサンタクロースが、集まった小学校低学年くらいの子供たちにプレゼントを手渡しながら、褒めたり励ましたりしていた。たぶん、子供たちへのメッセージは、予め親御さんたちから聞いておいたものだったのだろう。
集まった子供たちの中に一人、足に装具を付けて松葉杖で歩いている男の子がいた。一目で、私と同じ種類の脳性麻痺だと分かった。
サンタクロースはその子に近寄ってこう言った。
「いつもリハビリ、頑張ってるみたいだね。えらいね~。もっともっと頑張ったら、きっと歩けるようになるし、きっとほかのお友達みたいに何でもできるようになるよ。一生懸命やるんだよ、サンタさんとの約束だよ!」
私はその言葉を聞いて、自分の子供の頃を思い出すとともに、言いようのないモヤモヤ感を覚えた。
子供の頃、私も親から同じことを言われ、自分もいつかは、兄や他の健康な子たちと同じように走ったり、野球やサッカーをしたりできるようになるんだ、と信じていた。いや、そう信じていたのはあの頃の自分ではなく、むしろ親や周囲の大人たちだったのかもしれない。あの頃の自分はというと、痛みや疲労感に負けてたまるか、と思いながら一生懸命に訓練を毎日やって、やっと杖で歩けるようにはなったとはいえ、何故それ以上良くならないのか、焦りと情けなさを感じていた。
そう、私の親は当時、私の手足を「健常児」に近づけることこそが、障害を克服する唯一の手段だ、と考えていたのだ。そして、数年前に見たあの動画の子のご両親も、数十年も前の私の親と同じような考えを持っていたのだろう。
還暦を少し過ぎた年齢を迎えた私は、障害児を持った、そんな若い親御さんたちに強く、そして大きな声で言いたい。
「身体を健常な状態にできる限り近づけることを、子供の最大の目標にするのは大間違いだ。健常になれる子もいるだろうが、なれないことの方がよっぽど多い。そして、努力しても健常になれなかった子が、自分が親の期待に応えられないことに、どれだけ焦り、どれだけ大きな罪悪感を抱くことになるか、について深く考えてほしい。また、その焦りや罪悪感が、最悪の場合、障害が克服できないから自分はダメな人間なんだ、という自己否定につながる恐れさえあることにも注意を向けてほしい」。
障害を持った小さな子供にとって、リハビリも大事なことだ。その一方で、そのままでいいから、障害があってもいいから、その子が好きなことを見つけて、その子らしく生きていくことを人生の最大の目標にしてあげることの方がもっともっと大切なことではないだろうか。
そして、あの動画のように、子供たちの憧れるサンタクロースを悪用しないでほしい。サンタクロースは、もっと子供らしい、いつまでも夢のある存在なのだから…。大人にとってもね。
◆プロフィール
古本 聡(こもと さとし)
1957年生まれ。
脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。
早稲田大学商学部卒。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。
2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。