土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて⑬ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

13 私が出会った障害者運動の先駆者たち③『安積遊歩さん その1』

自分の人生のロールモデルを上げろと言われたら、真っ先に思いつく人の一人が安積遊歩さんだ。ここ十数年の間、彼女が指し示す方向性に向かって知らないうちに歩んできたように思えるし、活動家時代においても、事業を担うようになっても、安積さんは私にとって最大のメンターの一人だ。

初めて彼女に遭遇したのは、今から約20年前、代々木で行われた福祉先進国スウェーデンの障害当事者運動のパイオニア的存在であるアドルフラツカさんの講演会を、木村英子さんが運営される自立ステーションつばさのメンバーと一緒に聞きに行った時だ。パネルディスカッションの時に安積さんが私たちの前に姿を現した。彼女の介助をおそらくフィリピンの方であろう褐色の肌をした少女が担っていたのも非常に印象的だった。

正直アドルフラツカさんの講演内容は、まだ障害福祉の世界に飛び込んだばかりの私にはさほど興味を惹かれるものではなかった。一方、パネルディスカッションに登壇された安積さんの話と、また彼女の存在感に衝撃を受けた。

障害を持っている自分や仲間を全面的に肯定する思想、そもそも障害を自分の個性として再定義し、同じ障害を持った娘さんがいて、その娘さんが障害者であることを悲劇や克服すべきなにものかとしてではなく、愛すべき個性としてとらえ、娘さんが自分と同じ障害を持って生まれてきてくれてよかった、という逆転の思想に、なんとも言えない解放感を感じた。

それは私が障害福祉のお仕事に就く以前の私の障害者に対する認識を完全に転倒するものであり、自立ステーションつばさや全国公的介護保障要求者組合で物語られ位置付けられた苦難と悲しみの歴史の中にある障害者とはニュアンスが異なり、私たちの気持ちを軽やかにしてくれた。

アドルフラツカさんの講演会が終わり、自立ステーションつばさのメンバーと一緒に代々木から多摩市に帰った。好奇心を抑えることができず、帰り道にさっそく障害を持った仲間に「あの安積遊歩さんてどんな人?」と尋ねた。

どうやら安積さんは日本の障害者運動のパイオニア的存在の一人であるらしい。同じ障害を持った娘さんを40歳を過ぎて出産したそうだ。パートナーは彼女より16歳年下、つまり私と同い年のようだ。
アメリカに留学して海外の自立生活運動の方法論を学び、日本に移入しつつ、ピアカウンセリングという障害を持った人による障害を持った人に対するカウンセリングの第一人者でもあるとのこと。この業界では知らない人はほとんどいないビックネームだそうだ。
いまは全国公的介護保障要求者組合の事務所のある東京都国立市で自立生活センター(障害当事者による障害当事者に対するサービス提供事業者)の代表をしているとのこと。

話を聞けば聞くほどますます興味が引かれた。ぜひ会ってみたい、そう思った。すぐに国立にある自立生活センターに電話をして訪問し、安積さんの書かれた本を複数購入した。家に帰るなり本を開き、瞬く間に読了してしまった。「なんてすごい人だ」。それが本を読み終えたあとの私の感想だった。もっと彼女のことを知りたい、心からそう思った。

ある日、安積さんと映画監督の坂上香さん(代表作に「ライファーズ 終身刑を超えて」がある)の対談が、国立市の障害者スポーツセンターで開催された。当然のごとく参加した。「お説教では絶対に人は変わらない。真摯に耳を傾けることと徹底的に存在を肯定することこそが人に変化をもたらす」「カリスマリーダーは必要ない。一人一人が主人公のコミュニティーを作らなければならない」。
印象的なフレーズが、坂上さんと対話する安積さんのコメントに散りばめられていた。

完全にファンになってしまった。

ぜひ弟子入りしたい、そう思った。

本を読むと、どうやら障害運動のリーダーシップを担うのみならず、その活動は多岐にわたるようだ。フィリピンの貧しいコミュニティーを支援するNGOを立ち上げ、その運営を担っているとのこと。ピアカウンセリングとは別にコウカウンセリングあるいは再評価カウンセリングという、障害を持った方に限らず全ての人に開かれたカウンセリングコミュニティーの日本の代表者でもあるらしい。その他、環境保護活動やフェミニズム運動も牽引し、まさに「よりよい世界」の創造のために全方位的に活動する運動家がそこにいた。

ぜひ会ってお話してみたい。心からそう思った。

どうやら安積さんがゲストハウスを運営されているようだ。インターネットでその情報を見つけた。メールをしてみた。すぐに安積さんご本人から電話があった。
「もしもし、安積です、今回はメールくれてありがとう、ぜひ泊りに来てください。」
そうおっしゃっていただいた。憧れの人物からのさっそくの電話にどぎまぎした。
「ぜひ、ありがとうございます。」

さっそく安積さん宅を、いま妻となる人と一緒に、訪問した。

安積遊歩さんと、当時彼女のパートナーだった石丸ひでたけさんと、それからお二人のお子さんであるまだ小さかった安積宇宙さんが、私たちを歓待してくれた。

安積さんと石丸さんは私たちの想いや悩みに真摯に耳を傾けてくれた。

幼少期の宇宙さんの輝きがとても際立っていた。正しく愛されて育つとあんな風に輝けるんだ、彼女と感想を分かち合った。

その後、彼女たちとの家族ぐるみの付き合いが始まった。

混乱した青年期を送ってきた私は、「こんな人生を送りたい」という明確な指標を手にすることができた。

以降、安積さんと石丸さんは、私の人生の新たなるロールモデルとなった。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

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