第1回 経営戦略としての障がい者雇用 / 影山摩子弥

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

2018年4月から精神障がい者が法定雇用率の算定に含まれることになったことを背景に、障害者雇用促進法が改正され、法定雇用率が2.2%となった。ただ、この数字は、経過措置であって、今夏の厚労省の発表によれば、2021年3月1日より本来の2.3%となる。

障がい者が一般企業で就労することは、障がい者側にとってもハードルが高い面があるが、経済的自立につながったり、やりがいを得たりすることにもつながる。

例えば、表1・表2は、三重県で企業から仕事を請け負ってその企業内で作業を行う施設外就労に取り組む事業所の工賃である。表1にあるように、施設外就労を実施している場合、県や全国との平均で大きな差が生ずる。その差が施設外就労の成果であることは、表2にあるように、同じ事業所でも大きな差が出ることから分かる。

しかも、施設外就労に取り組む障がい者にインタビューをすると「楽しい」との声が聞かれ、事業所の職員の話では、家族も「楽しそうに就労に向かう」と様子を語っているそうである。

他方、企業の取り組みはというと、芳しいとは言えない。

図1に見られるように青の折れ線グラフで示した実雇用率は、ほぼ一貫して上昇している。しかし、赤の横線で示した法定雇用率との相関を示している。つまり、法定雇用率を追いかけているだけとも言える。障がい者雇用に積極的であれば、最初から実雇用率は高かったはずである。

日本企業は、CSR(企業の社会的責任)のなかでもコンプライアンスを重視する傾向がある。CSRに対する誤解があり、社会性のある事業を経営戦略化できていないことが背景にあると言えるが、障がい者雇用が企業にとって負担にしかならず、経営的意味がないのであれば、法に抵触しない程度に取り組もうということである。もう少し詳しく見てみよう。

図2は、2018年に法定雇用率が改訂された直後に、法定雇用率を達成している企業の割合を規模別に整理したデータである。全体として半分に満たないことに加え、新たに法定用率が課されるようになった45.5-50人未満企業のパフォーマンスが低い。

財務規模が小さく体力も大きくない中小企業にとって、障がい者雇用が負担になるのであれば、取り組みにくいのは当然ともいえる。2019年6月1日のデータでも法定雇用率を達成している企業は全体の48%に過ぎない。

さらに、図3は、規模別に見た実雇用率の平均である。法定雇用率改定直後に法定雇用率を超えているのは、1000人規模以上だけである。しかも、規模が小さいほどパフォーマンスが低い傾向がある。

しかし、図2・図3のデータをよく見ると、障がい者雇用には積極的意味があることが示唆されているとも読める。図4は、雇用率未達成企業が1人も雇っていないと仮定した場合、雇用率を達成している企業1社あたりで何%雇用していることになるかを算出したグラフである。

規模の大きな企業の場合、非現実的な数値であるが、45.5-50人未満の場合、現実に近いはずである。その場合、最小規模の企業は5.0%と、5.1%の500-1000人未満に次ぐパフォーマンスである。障がい者雇用が経営の負担にしかならないのであれば、このようなパフォーマンスはあり得ない。

障がい者雇用には、企業にとって3つの効用がある。1つは、コンプライアンスである。第2に、戦力である。人手不足に悩む企業にとって救世主ともいえる。第3に、仕事がしやすくなる、社内の雰囲気がよくなるなどの効果がもたらされ、健常者社員の労働生産性が上がることである。第2と第3を、私は、障がい者雇用のダイバーシティ効果と呼んでいる。次回以降、これらについて順次解説していこう。

 

◆プロフィール
影山 摩子弥(かげやま まこや)

研究・教育の傍ら、海外や日本国内の行政機関、企業、NPOなどからの相談に対応している。また、CSRの認定制度である「横浜型地域貢献企業認定制度(横浜市)」や「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度(宇都宮市)」、「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を担い、地域および中小企業の活性化のための支援を行っている。

◎履歴
1959年に静岡県浜北市(現 浜松市)に生まれる。

1983年 早稲田大学商学部卒。

1989年横浜市立大学商学部専任講師、2001年同教授、2019年同大学国際教養学部教授。

2006年 横浜市立大学CSRセンターLLP(現 CSR&サステナビリティセンター合同会社)センター長(現在に至る)

2012年 全日本印刷工業組合特別顧問 兼 CSR推進専門委員会特別委員(現在に至る)

2014年 一般社団法人日本ES開発協会顧問(現在に至る)

2019年 一般財団法人CSOネットワーク(現在に至る)

◎専門:経済原論、経済システム論

◎現在の研究テーマ:地域CSR論、障がい者雇用

◎著書:
・『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)
・世界経済と人間生活の経済学』(敬文堂)

 

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