土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
「もうさ、結婚できるんじゃない?」私は、晩ごはんを食べながら彼女に言った。そうすると彼女は、ケタケタ笑いながら「旦那に聞いてみるわ。」と言った。
「結婚するっていうのは、もちろん冗談だけどさ。なんの打ち合わせもしてないのに、キャッチャーミットのど真ん中に豪速球がズドーンっておさまるみたいにドンピシャで美味しいのってすごくない?」と私が彼女に早口で伝えると、「いや、ちょっと何言ってるかわかんないです…。」ってサンドウィッチマンのネタかよ。顔、ニヤッとしてるから分かってるやん。絶対。
この寸劇のようなやりとりを彼女と出会ってから何度となくしている。
一人暮らしを始めてから、「これってやっぱり大事やったんやなぁー。」とひしひし感じたものがある。それが、食事だ。
食が人をつくるとはよく言うけれど、それはなんとなく、血液とか筋肉とか機能や器官的なことなのかと私は思っていた。いや、実際は都合の良い言い訳なのだろう。私の一人暮らしにおいての優先事項の第一位は「命をつなぐこと。」もっと、具体的に言えばトイレに行って、服を着替え、お風呂に入る。そんなようなことだ。
なぜ、それをわざわざ「命をつなぐ」などという詩的な言い方をしているのかと言えば、私自身がその全ての行為を人に助けてもらわないとできないからである。そのため、私のサービスには必ず「身体介助」が必須である。私は、それを日常の中では「抱っこ」と呼ぶことが多い。
市営住宅に引っ越してからは、以前の賃貸マンションよりも、福祉用具を充実させることができただろう。入浴用のリフトを導入できたことで、アテンダントさん達の負担軽減も少しは図ることができたかもしれない。しかし、「抱っこ」の廃止には至っていない。
ということは、私のサービスに入ってくれる人は、同行の段階から抱っこに関する綿密なやりとりがなされることになるのだ。ひとりひとり、体格や私との身長差が違うため、「2人だけの方法」を見つけないと事故につながったり、アテンダントさんへの過度な負担がかかる介助方法だった場合、長く支えてもらえないということになるのだ。
それは、すごくもったいないと思う。せっかくできた縁やもん。大事大事。そんな風に抱っこのすり合わせに時間をかけていたら、疎かになったものの筆頭が「ごはん」である。
どうせ私しか食べないし、料理が苦手なアテンダントさんだったらお惣菜や牛丼を買ってきてもらえばいい。と思っていたし、それは今でも思っている。得手不得手は誰にでもあるから。その中で、温かいごはんをつくってくれる人は「すごいなぁ。」と感じていたし、「マズくない=美味しい」と思っていた。そんなときだった。
新しい事業所さんが入ってくださることになって、ドッキドキの面談の日。2人の女性が現れた。そのうちの1人が冒頭の彼女だった。私の第一印象は、誠実そうな人だなという印象と話のテンポが最初から合ったため、「楽に過ごせそう…」とふわっと思った。
サービスに入ってもらうようになって、「彩乃氏、今日は何が食べたい?」と聞かれたので、「なんでも。」と答えると、「りょーかい。」と言ってテキパキと料理を始め、ものの30分ほどで、メインとスープが出来上がり、優しい湯気をあげていた。
私は、一口食べて驚いた。今まで食べたごはんの中で1番美味しかった。彼女にもそう伝えると、「私と彩乃氏の好みが合っただけやろ?」と言った。
彼女のご飯を食べるようになって「食は人をつくる」という言葉の意味を違う形でとらえるようになった。美味しいものを食べると、精神的に安定するし、自分が本当に好きな味がどんなものか分かれば、それを色々なアテンダントさんに説明できる。
もうちょっと濃くしてとか、薄味がいいとかね。それを続けていけば、自分の好きな味に出会える回数が増えて、もっと私自身が心地よく健康的に過ごせるだろう。
しかし、無理強いはよくない。ひとりひとりのアテンダントさんときちんと話し合って、よりよい生活をつくっていこう。「今は、料理苦手だけど、頑張って覚えたいんです!」と言ってくれるアテンダントさんもいる。
よしっ。料理本買って、一緒に勉強しますか!え、あの漫画の新刊出るの?マジかぁ。とりあえずまずは、私自身の女子力向上を最優先課題にしよう。それすら遠い未来に思えてきた…。どうしよう。
◆プロフィール
鶴﨑 彩乃(つるさき あやの)
1991年7月28日生まれ
脳性麻痺のため、幼少期から電動車いすで生活しており、神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科を卒業しています。社会福祉士・精神保健福祉士の資格を持っています。
大学を卒業してから現在まで、ひとり暮らしを継続中です。
趣味は、日本史(戦国~明治初期)・漫画・アニメ。結構なガチオタです。