土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉖ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

26 土屋の12のバリュー② 「品位」について

株式会社土屋の倫理規定ともいえる12のバリューの1番目は次のように書かれている。

1 優しく、そして、強く、品位をもって、他者と関わる

ニュージーランドのアーダーン首相はコロナ禍の中、オンラインで国民にロックダウンの詳細や感染者数の推移について伝えるとき、必ず次のフレーズでスピーチを終えたという。

「強く、そして、お互いに優しく」

コミュニティーが危機を乗り越えるとき、メンバー同士の固い絆が求められる。相互の信頼が不可欠だ。私たちも、巨大な危機を乗り越え、今日に至る。その荒波や暴風を乗り越えるとき、私たちに求められたのは、能力でも競争でも利己主義でもなく、絆と信頼だった。大切なものを共有している、同じ方向を見ることができている、という確信だった。

しかし、信頼と絆を持続することはそう簡単ではない。危機においては、不安と恐れの中で、憶測や猜疑心や邪推が飛び交う。そんな中でも私たちが信頼を深め、絆を強めるためには、一人一人に「強さ」が必要だ。そして、それぞれの中に眠る「優しさ」への確信が必要だった。

どうやら私たちは私たちの身に到来した巨大な危機をひとまず乗り越えつつあるように思われる。株式会社土屋が立ち上がって半年が過ぎ去ろうとしている。波のように定期的にやってくる危機、資金調達や法令遵守やシステムの抜本的な変更や深刻な人手不足問題などなどを、一つまた一つと乗り越え、2020年8月に出帆したこの船は巡航のステージに入ろうとしている。

一人一人の信頼と絆がなければ、この危機は絶対に乗り越えられなかった。真摯な対話がなければ、信頼と絆は失われたであろう。一人一人が強く、そして優しくなければ、私たちの信頼と絆は持続できなかった。

深く、深く、そう思う。

今後もお互いの信頼と絆が揺らぐことはあるだろう。不安や恐れは、私たちを猜疑と不信のループに巻き込んでいくかもしれない。

しかし、そんなときに、私たちは思い出したい。この間、仲間たちと共有した稀有な時間を。そして、私たち一人一人の心の内に潜在する、強さと優しさの種を、探し続けたい。

アーダーン首相がパンデミックの最中で国民一人一人に語りかけたように、私たち一人一人がお互いに、呼びかけあいたい。それぞれの内側に眠る、強さと優しさ、に向けて。

そうすると、私たちのコミュニティーが、本質的な「品位」を手にすることができるかもしれない。皮相的な意味での「品がいい」ということではもちろんない。後者が指すところの「品位」という言葉が、私は正直好きではない。そこには階級差別の匂いがする。教養や趣味や通俗的な美意識が、連綿と続く固定化された階級差別をイデオロギーとして正当化する装置として機能してきたことに対する無自覚が感じられる。

しかし、危機を乗り越える中で勝ち取られる「品位」は、通俗的な意味での「上品」とは似て非なるもの、むしろその対極にあるとすら思われる。

他者の痛みに対する共感を前提とした「品位」を、私たちは追求したい。

目の前に傷んでいる人がいるのに、見て見ぬふりをして自分自身の日常を維持しようとするのは「下品」である。

明らかに間違えていると思われる状況の中にあって、何の抗議をすることもなく、変化をもたらそうと努めることもなく、適応と自己保身に専心することは「下品」である。

魂の内側から流れ出す血の痛みに対して無頓着でありながら、表層的な皮膚感覚にばかり囚われるのは「下品」だ。

私たちは弱い。弱い私たちは「下品」であらざるをえないかもしれない。

そんな弱さをと品位の欠如を抱えた私たちが、自分自身を自覚したとき、本当の意味での「品位」に向けた歩みが、始まるかもしれない。

人間性への尊敬と希望に立脚した、共感や理解を大切にする、品位あるコミュニティーであれるよう、今後も努めていきたい。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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