食生活を見直すpart2 〜ニュージーランドでヴィーガン生活〜 / 安積遊歩

ニュージーランドに1ヶ月半を過ごした。そこは酪農の国だ。どこに行っても広々とした牧草地が広がり、牛や羊が放牧されている。多くの人々は毎日肉食をし、夕食後にはデザートにアイスクリームなどのスイーツも食べる。

しかしその食生活も近年少しずつ変わってきている気がする。というのも、私は娘がニュージーランドにいるのでニュージーランドに行って娘の年代の若い人と多く交流するからかもしれない。娘は27歳で車椅子を使っている。車椅子を使う人として初めてのオタゴ大学の正規の留学生だった。大学では学生自治会の留学生代表を務め、今は障がい者の権利の向上を図るための研究所で働いている。そんなこんなでとにかく知り合いが多く、特に20代30代の友人にはベジタリアン、ヴィーガンの人もいる。

私はもともと20歳の時から肉を食べないようにした。長い間肉だけを避けていたが、最近は出来る限り動物性食品は食べないようにしている。ただ日本にいると鰹節や煮干しの類を避けるのが大変だ。特に私は味噌汁とそばが好きなので外食は自分の蕎麦つゆを持って行ったり、どうしても味噌汁を食べたい時は味噌玉を持って出かける。

今回ニュージーランドで驚いたのはほとんどのカフェやレストランにヴィーガンメニューがあったこと。酪農の国なのにというべきか、酪農の国だからというべきか若い人の肉食に対する洞察と認識が深まっているのを感じた。

ベジタリアンには色んなタイプのベジタリアンがある。肉は食べないがチーズや卵を摂ったり、時には魚はokだったりする。肉を食べれば家畜に異様に生きる苦しみを強い、死の瞬間まで一瞬も生き物としての尊厳を奪い尽くす飼い方だ。その辺は、日本ハムや養鶏会社に勤めた人の聞き取りを行って書かれた『収容所群島』に詳しい。この本は、ヴィーガニズムとはただ単に肉食をやめようと言う、考え方ではなく命の搾取を止めようと言う考え方であると定義している。

ところで話を戻せば、もちろんニュージーランドでもヴィーガンをしている人たちが楽々その生き方を選んでいるとはまだまだ言えない。しかし少なくとも外食をする時の苦労は日本の半分、10分の1かもしれない。スーパーにもそれぞれのコーナーにヴィーガンサインや植物由来の材料のみという書かれ方で様々な食品が並んでいる。

ヴィーガンの行き方を選ぶには主に4つの理由がある。今日はその1つ目にこだわって書いてみる。家畜や魚は動物で、人間と近い赤い血が流れる生き物だ。だから人間と同じように命を守るために苦痛を強いるのは可哀想だし残酷だしよくないとする感じ方考え方。私は長い間動物が苦痛を感じているとはわかっていても、そこに丁寧にフォーカスする、或いは感じることが出来ないでいた。特に家畜はわかるが魚についてはなかなかこの痛みに思いを馳せることが出来なかった。

しかしニュージーランドで(2011年から2014年)暮らしてから魚を食べることを徹底的に辞めれた。その理由は海釣り。海のすぐ近くに住んでいてしょっちゅう釣りをして、シロアジをよく釣った。ところが、一緒に暮らしていた娘にも友人にも可哀想だから食べたくないと言われ、大量のシロアジを1人で捌き食べる日が続いた。そのうちに魚たちの目がうらめしそうに見え、自分の血だらけの手が嫌になっていった。同時に魚を釣ることでの嬉しさも無くなりついには釣りに対する嫌悪感さえ生じていった。

今回のニュージーランドでの滞在の最後の日に数百頭のマトンかラムにされる羊を乗せたトラックを見た。交差点で信号待ちの時のこと。あまりの臭さに振り返ったらトラックの木の板で作られた柵の間から頭が出ている、子羊を見た。生後何日か何十日かわからなかったがその小さい顔には幼さとは真逆の疲れ諦めが漂いまくっていた。

ニュージーランドは羊の国と言われていたが、今は羊よりも牛の方が圧倒的に多い。全世界の3千万人の赤ちゃんの粉ミルクをニュージーランドの会社が生産しているともいう。羊も牛も豚も鶏も日本の飼い方ほどではないけれど悲惨なものであるということを若い人の方がよく知っていた。

ところで家畜が残酷な一生を終えることには関心がない人々がペットはめちゃくちゃに可愛がっていたりする。これはニュージーランドに限らずだが。ある日この世界の位置が逆転することを想像してみる。つまり檻に閉じ込められ歯を抜かれ尻尾を切られていた豚たちが家々で丁寧に飼われ可愛がられるー。それとは反対に今度はペットが檻に入れられ歯を抜かれ尻尾を切られ多産を強いられる。成長ホルモンや抗生物質をガンガン投与され体重が通常の数倍になったら肉として市場に出される…。

自分の飼っている犬や猫は絶対に食べたくないだろうし、そんなことを言うだけでペットを大事に思っている人からは、めちゃくちゃに嫌われるだろう。ただペットを飼う人の中にも様々いて、ペットに飽きてしまったらその子を捨てたり殺処分する人もいる。私からすれば平気で家畜の肉は食べながらペットを飼っているわけだから、そんな人がいるのも想像に難くない。

今世界では1秒間に四万頭もの、家畜魚類等が殺され食べられているという。そのあり方があまりに福祉とは程遠いということでアニマルウェルフェアという考え方が言われ始めた。しかし私としては福祉という名のもとに、殺して食べるというのはやはり釈然としない。できればみんながヴィーガンになれば外食で嫌な思いをすることがなくなるなぁと言う夢を見ている。
◆プロフィール

安積 遊歩(あさか ゆうほ)
1956年、福島県福島市 生まれ

骨が弱いという特徴を持って生まれた。22歳の時に、親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介する活動を開始。障害者の自立生活運動をはじめ、現在も様々な分野で当事者として発信を行なっている。

著書には、『癒しのセクシー・トリップーわたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社)、『車イスからの宣戦布告ー私がしあわせであるために私は政治的になる』(太郎次郎社)、『共生する身体ーセクシュアリティを肯定すること』(東京大学出版会)、『いのちに贈る超自立論ーすべてのからだは百点満点』(太郎次郎エディタタス)、『多様性のレッスン』(ミツイパブリッシング)、『自分がきらいなあなたへ』(ミツイパブリッシング)等がある。

2019年7月にはNHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。好評で再放送もされた。

 

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