土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉛ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

31 土屋の12のバリュー⑦

アンガーマネジメントは私たちの事業運営において、現場においても、マネジメントにおいても、とても重要である。

怒りの爆発は何も生まない、不正には憤ろう、強く、深く、しかし冷静に

私たちがケア現場において「怒り」の感情に支配され、その中で盲目的に行動してしまったら、クライアントとの関係は育っていかない。最悪の場合、私たちは虐待加害者になってしまう可能性すらある。しかし、この「怒り」の感情は、空腹や尿意と同様に私たちにとってはとても自然なものであり、その感情をないことにする態度もまた適切とはいえない。そこにある「怒り」の感情をないことにするのは、ある意味自分自身へのネグレクトともいえる。そのようなネグレクトが常態化してしまったら、私たちはケアという感情労働を継続することはいずれ難しくなってしまうだろう。場合によってはバーンアウトの危険性すらある。

マネジメントや経営を担う人がその立場を利用して怒りを爆発させればそれはパワーハラスメントと呼ばれ、社会的に指弾され、かつ彼らがリーダーシップをとる組織は瞬く間に崩壊する。部下が上司に対してその境界を尊重することなく罵詈雑言を浴びせたとしたら、それもれっきとしたパワーハラスメントと認定される。なりふり構わず怒りをぶつければ周囲の人が傷つき、その怒りに言葉を与えずほっといてただただ我慢すれば本人が傷つく。どちらもバランス感覚を欠いており、このバランス感覚こそがケア現場においてもマネジメントにも求められる最も重要なヒューマンスキルだと思える。

そこにあることを認め、飲み込まれるのでもなく、無視し続けるのでもなく、上手にお付き合いし、場合によってはその感情という言葉にならない言葉を、自分を傷つけるでも他人を傷つけるのでもない、多くの人が受け取りやすい言葉や行動に、つまり適切な主張に、変換していくことが望ましい。アサーティブコミュニケーションというものである。

しかし、言うは易く行うは難し、つくづくそう思う。理屈ではわかっていても、なかなか実践するのは困難だ。私も含め多くの人が「ちょうどよさ」を見出すことができず、自分を傷つける沈黙か、他人を傷つける爆発や嫌味、に身を任せてしまう。また、他人を傷つける沈黙というものもある。それは不正義や不公正に対して、「知らないふりをする」「見て見ぬふりをする」態度を決め込むことだ。ないことになっているのだから、本人の心は平穏無事であり冷静沈着かもしれない。しかし、その自分の平和は、誰かの犠牲の上に立っている。

コンパッションとはヒトが幼い頃から持っている自然な能力である。歩いたり、ご飯を食べたり、笑ったりできるように、私たちは誰に教わったわけでもないのに、共感できる。目の前で泣いている人がいれば自分も悲しくなるし、自分が大好きな人が怒っていたらなんだか自分の中からも怒りが湧いてくる。仲間が傷つけられていれば、自分も痛みを感じ、なんとか状況を改善したいと思う。社会正義に基づく怒りである。しかし、この怒りも時として厄介事を引き起こす。この怒りに囚われたとき、傷つけられた私たちはやがて他者を傷つける。被害者が加害者となる。しかし、このあと加害者としての反省が機能しない。社会正義に守られ、正当化され、自分自身の加害性を認識することができなくなってしまう。どんなに目の前にいる人の心身が傷ついていたとしても、「悪いのは相手だ」の一点張りで全体像が見えなくなってしまう。

不正義に怒るのは悪くない。むしろ怒らないほうが悪い。ただし、怒りながらも常に冷静であるよう心掛けなければならない。冷静であるためには、全体を俯瞰し、物事を相対化する視点も必要だ。この正義/不正義の判断基準は本当に正しいのか、もしかしたら自分の判断基準が間違っており、異なる物差しで測ったとき正義と不正義の立ち位置は反転するんじゃないか、そんな自分自身への懐疑と批評精神が必要なこともある。

決断と迷いの間を、情熱と冷静の狭間を、ゆらゆらと行きつ戻りつしながら、考えつつ行動し、憤りつつそんな自分に時として水を差していく必要がある。無関心でも過関心でもなく、優れたボクサーがゴングが鳴って数ラウンドで最適な間合いを発見するように、自分自身に対しても他者に対しても動きのなかで「ちょうどよさ」を見出していきたい。自分もハッピー、相手もハッピーの「ちょうどよさ」がコミュニティー全体に浸透するよう、そんなカルチャー形成に努めていきたい。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

関連記事

TOP