地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記84~いかなる理由でも人を殺めてはいけない平和な世の中を再生するには~ / 渡邉由美子

参議院議員選挙の投票日を目前に控えた金曜日。あってはならない出来事が起こっていました。私はルーティンの社会参加活動中であったためにその事実を知ったのは活動帰りの電車の中でありました。何ともショッキングな事件です。

その事件が起こった日はテレビや新聞各社がこぞってその現実を繰り返し報道している様を見て、色々なことを考えさせられてしまいました。この原稿を書いている段階では犯人の全容解明はされておらず、断片的なことしか分からない状態であります。

安倍元首相だからではなく、犯人がこの社会というものに恨みを持っていて、社会的にも孤立させられて追い詰められた末に、一人の人間の思いで人の命を殺めてしまうという行き過ぎた行動に繋がっていったのです。その社会構造そのものを本当に真剣に変えていかなければいけない時期に来ているのだとつくづく思うニュースでした。

人の命はとても尊いものです。重大な罪を犯した死刑囚ですらも殺めるという形で終結をしているケースは、世界を見ても数少ないのです。死刑制度の賛否は様々な議論があります。それに対して論ずることは知識が少なすぎて出来ないのが現実です。

だとしても人の命が簡単に殺められてしまうことには、根底にある思想として、「人に優劣をつける」という価値観から抜け出せない現代社会が作り出していることのように思えてなりません。要するに、優生思想が根底にある社会で、人を殺すということが行われやすい状況が加速しているのではないかと思えてなりません。

報道は徐々に、「SPがついていながらなぜ安倍元首相は殺されなければいけなかったのか?」と個人や組織を責めるような論調に変化しています。どんなに警戒・警備をしていたとしても想像をはるかに絶する暴挙が起こり、それが銃の弾丸ということになれば、防ぎようが無いのは仕方がない部分と皆がわかっているのです。それでも誰かの責任にして事件を収束させるという社会構造が幾度となく繰り返されてしまうことに疑問を感じてならないのです。

犯人はどの様な資格を保持して殺傷能力の高い銃をつくり、なぜそれを用いて犯行に及んでしまったのかわかりませんが、そのような特殊な能力を有したことは確かです。その能力を社会に貢献するようなことに使えていたならば、社会貢献度の高い人間となっていた可能性も大いにあるのではないかと考えてしまいます。しかし、実際には元首相をたくさんの人が集まる街頭という公衆の面前の場で、罪を犯して逮捕されるという結末となってしまっているのです。

どうしたらこのようなことが繰り返されない世の中になるのか、本当に考えさせられる事件です。日本は銃を保持してはいけない国であるにもかかわらず、最近、訪問医療の優秀なお医者さんが訪問時に猟銃で撃たれて亡くなる事件も記憶に新しいのではないでしょうか。このように日本もいつまで平和な国と言っていられるのかわからない事態となっています。

折りしも7月26日は相模原障がい者殺傷事件から6年目を迎える同じ月に、犯人の勝手な思い込みと衝動性によって命が殺められる事件が発生するということに何とも言えぬ不条理感を覚えてしまうのです。

両事件とも犯人が何を思ったかを起点にして事件が起こっており、自分のしたことを正当化するという観点も似ている点が多いのです。相手が一国の元首相であったか、一般国民であったかという違いで報道のされ方が全く異なっているというだけなのです。

先日、参議院選挙の投票日も終わり、新しい政権が動き出す状況ですが、改めて、誰に一票を投じるのかということで少しでも世の中の正常化を取り戻していきたいと思います。

そんなことを思う中で、重度な障がいをもつ人も含めて誰も取りこぼされる人のいない社会の実現を訴えている政党に、原動力として活躍していただくことをきっかけにテロのない社会のうねりを再生していきたいと願うばかりです。そうなればみんなが幸せに暮らして生きていけると確信します。障がいが重くても暮らせるということは歪みがない社会だからです。

また、この事件に限らず、あまりにも突然のあり得ないことが現実となってしまうようなニュースは、事の重大性からすれば、本来は事件の内容をきちんと見て、そのことを二度と繰り返さないように次につなげていかなければならないことだとは思います。

しかし、人間の力では防ぎようのないことが起こったその瞬間を永続的に何度も映像などによって見せられると、見ている私たちの心が追い詰められ、苦しくなってきてしまいます。

この世の中で生きていることがただでさえ楽ではない部分を普段から前向きに生きようとしている中で、私自身のメンタルを病んでしまいそうになるので、目を背けてなるべく負の感情が強くなるものを遠ざけて生きようとする本能が働いてしまうのは仕方のないことだと思います。

さまざまな情報が溢れている現代においては、このようなショッキングな事件に関する情報の取捨選択も必要なことであると思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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