地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記93~インターネット社会の普及に思うこと~ / 渡邉由美子

最近、インターネット社会の進化に後れをとることなく暮らしていきたいと思い、介護者に過剰に依存せず、少しでもいいから自分で操作方法を覚えようと私なりに努力をしています。

検索機能をつかって調べものをしたり、SNSやメールを介して様々な人と連絡を取り合ったり、ZOOMで会議をしたりと、やりたいことはそれほどむずかしいことではありません。

しかしそれらを行うために何かしらの設定が必要で、やりたいことに至るまでに操作が分からなくなってつまずいてしまうことがよくあります。そんな時、元来アナログな私は、電話でオペレーターと対話しながら手取り足取り教わることができたらと考えます。

ところが最近は問い合わせ先の番号に電話をかけると音声ガイダンスが流れ、問い合わせの内容に従って番号を選ぶよう誘導され、その末にオペレーターがでるまで、30分、1時間と途方もなく長い時間待たされることになります。

また待っている間は延々と「自分で操作をして手続きが完了したらポイントが付与されます」というお得なキャンペーンのアナウンスが流れ続けます。それはまるで人が対応する事を断固として拒むかのようで、だんだんいけないことをしていたり、はたまた能力が劣ると言われ続けている気分になったり、ついには電話を切らなければいけないのではないかという心境にさせられるのです。

フリーダイヤルの場合にはお金はかからないので、イライラはすれど、まだ他のことをしながら待っていられるのですが、ナビダイヤルのように通話料金がかかる場合には、その待ち時間にもお金がかかってしまいます。月の電話料金が跳ね上がって、とても困惑したこともありました。

コロナ禍でますます人と人が触れ合うことをはばかられるご時世となっているのは分かっています。しかしネットで自力で調べて解決できる人ばかりではないので、ある程度の数のオペレーターを配置するなどして、誰もが社会についていけるシステムを残してほしいと思います。

そんな中でインターネットの連絡共有アプリに頼ったばかりに灼熱のバス内に幼稚園児が取り残されて死亡するという痛ましい事件が起こってしまいました。亡くなった3歳の女の子は30度を超える幼稚園バスの中に5時間も取り残され、助けを呼ぶ手段もなく、職員が気づいた時には既に死亡していたということです。

このような事件は今回に限らず、繰り返し起こっています。その子は一番後方の席で置き去りにされたにも関わらず、持っていた水筒を飲み干したり、洋服を全部脱いで暑さをしのごうとしたり、前方に移動したりと、必死に生命を維持しようと努力したようです。その報道を耳にして、なぜそんなにも賢い女児が亡くなるまで発見されずにいたのかと思わずにはいられませんでした。

ここでもアプリを使って乗車と降車の確認、それから出欠確認などが行われていました。最先端の技術を用いて絶対的な安全確保を実現するはずが、なぜかこういったものが全くなかった時代に逆行してしまったのです。

アプリ上ではその女児の降車と登園が確認できたと入力されていたにも関わらず、実際には死亡した状態で発見されるという最悪の結果になってしまいました。この事件が起こった発端は、いつもの送迎バス運転手が休んだことで、運営体制がずさんになってしまったというものです。

介護の世界も同様ですが、マンパワーの確保は本当に深刻な課題です。

今はAIが人間の評価まで行う時代だといわれます。ある意味では感情が入ったり中立性が失われたりすることなく、その人の能力を客観的に評価できる優れたものにも思われます。

しかし私は何事も人間の五感を駆使した確認に勝るものはないと思うのです。起こってしまった事の原因を追究したところで、失われた命が戻ることはありません。また事件を起こした人たちを責めることはいくらでもできますし、罪を償わせることはもちろん必要だと考えます。でもそれだけでは解決や再発防止はできないと思うのです。

去年も同様の事件が起き、被害者の家族が「このような悲惨な事件は、うちの子供で終わりにしたい」と言っていたのをよく覚えています。

インターネット社会が進化していく中で、それを日常に取り入れることを否定している訳ではありませんが、その進歩と同時に、政府が福祉現場のマンパワー不足解消や、アプリが適正に活用されているかをチェックする人材の確保をきちんとした政策として行う必要があると思います。

こういった事件は慢性的な人材不足が引き金となって招いてしまった人災だと思わずにはいられません。

重度の障がいを持つ私たちも、マンパワーの確保や十分な介護を受けるための支給時間が保障されなければ、置き去りになった女児と同じような状況で暑くても耐えなければなりません。

そんなことが起こらずにすむように、ネット社会の便利さと人の力でなければできないことを車の両輪のように融合させ、だれもが安全に暮らしていける社会が実現することを切に願いながら訴え続けていこうと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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