地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記105~2022年を振り返って思うこと~ / 渡邉由美子

早いもので、今年も残すところあとわずかになりました。最近はサッカーワールドカップの話題で持ちきりでした。そんな風に世の中を見渡すと平和に年が暮れていくような錯覚に陥りますが、ロシアによるウクライナ侵攻は終息の兆しも見えず、また新型コロナウイルス感染症は治まる様子もありません。

まもなく感染症の分類も5類になると言われており、コロナを危険視扱いする意識も薄れてきているように感じます。円安ドル高で物価が高騰し、低所得者や社会的弱者と言われる人たちの生活は立ち行かなくなり、生きることへの希望を失う人も少なくないと聞きます。

そういった状況にあっても法律の改正は簡単に衆議院を通過し、参議院も通過し、可決されてしまいます。障がい者福祉の基礎をつくる法律「障害者基本法」も同様です。昭和の時代から慎重に改正を重ねながら継続されてきたこの法律は、いまや障がい当事者の意見を全く無視した形に変えられようとしています。

障がいはその種別や個々の特性によって様々です。にもかかわらず、身体・精神・知的、発達障害、難病といった障がいや疾患を一括りにする乱暴な改正法が衆参両院を通過し、施行される見込みとなってしまいました。

去る12月6日、そのことに大きな危機感を抱く障がい当事者たちが参議院議員会館の前に座り込み、泊まり込む勢いで抗議行動をしました。

私たちは最低気温が10℃を下回るなか、体を張ってその強引な法案の決め方や問題点に対し、猛抗議を行いました。重度障がい者にとって日々体調を維持・管理することはたやすいことではありません。揺らぎやすい体調と上手につきあいながら生きることは本当に大変なことです。

折りからの人材不足も相まって、この12月から1月初旬にかけて、私は自らの生活を支える介護者の確保にとても苦労しています。この期間を青息吐息で生きていかなければならない。そんな身近な危機感も抗議活動への参加に拍車をかけるものでした。

たとえ法律が改正されてしまったとしても、それを活用しながら生きる障がい当事者たちは到底納得などできません。たとえば精神障がいや難病をもつ人たちは、その法改正によって、公然と身体拘束がされやすくなってしまいます。

障がいや疾患をもつ本人だけでなく、医療従事者も急性期をいかに安全に乗り切るかということに頭を悩ませていることは理解しつつ、やはり身体拘束ではない方法を真剣に考えてほしいと切に願います。

また難病をもつ人のなかにはつらい症状を抱えているにもかかわらず、必要な薬を手にするための経済的支援が受けられなかったり、見た目にあきらかな不調がみられないために、無理をおして働くことになり、病状そのものが悪化してしまったりといったケースも後を絶ちません。

障がいの種類や程度など、どれをとっても答えのないむずかしい問題を、人の命や生活の質に関わる大事な法案を、世の中がサッカーワールドカップの話題で浮足立っている間に、まるで何事もなかったかのように通されてしまうことに怒りを禁じ得ません。

ひとたび法律で決まってしまえば、厚生労働大臣は「地方行政団体は国の法律に従って障がい者施策を推進するように」と全国一律でそれを強要します。たとえ自身が住んでいる自治体に「もっと生きやすい、実態に沿った、人の血の通った福祉施策を」と訴える人がいたとしても、「これは国の決定事項です。文句があるなら国に陳述書を提出し、国と闘ってください」と門前払いをされてしまうのです。

今回の法改正が可決されてしまったら、いくら窮状を訴えても、訴える先をたらい回しされる当事者が多く現れることは目に見えています。だからこそ当日は、まるで1970年代初頭の障がい者運動を彷彿とさせる座り込みという手法を用い、当時のレガシーを知る70代の重度障がい者を先頭に抗議活動を行ったのでした。

身体の芯まで凍りつくような寒さの中で、「ここまでしなければこの国の障がい者福祉を担う人たちに、当事者たちの想いは伝わらないのか」と悲しさを覚えながら参加した私ですが、障がいをもつ仲間たちの想いはその寒さやつらさをも吹き飛ばす情熱と熱気にあふれており、法律の改悪に屈することなく強く生きようとする活力と連帯感の強さを改めて感じることができました。

この活動を行う前に、各障がい者団体から厚生労働省へは抗議内容を明確に伝えるための文書が届けられています。法律の大枠は衆参両院を通って可決されてしまったとしても、中身にはまだまだ修正の余地がある。もっと暮らしに役立つ障がい者基本法の運用を国に訴えていきたいと思っています。

国会議員や厚労省の役人たちの一部には、私たちの行動にエールを送ってくれたり、寒い中、私たちとともに世論に向けた訴えをしてくれたりといった人たちもいました。すべての党派を巻き込んだ大きな議論に持ち込むことも、メディア各社が大きく報道してくれることも実現しなかった点は残念でしたが、イベント的な座り込み活動で終わらせることなく、今後も「おかしいことはおかしい」「当事者の意見に耳を傾けろ」という運動を粘り強く続けていきたいと思います。

そして今年一年、力いっぱい活動した自分をほめながら、少しでも穏やかな年越しを迎えたいと思っています。今年もよくがんばった一年でした。その意味では総じてよい一年であったと締めくくれるのではないかと思います。

皆さん、来年も引き続き、よりよく生きるための障がい者運動を続けていきましょう。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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