地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記118~再び重度訪問介護に思うこと~ / 渡邉由美子

もう少し幅広くいろんなことに興味を持って生活していたら、人間として深みも出て、人的魅力オンリーで、それほど必死にならなくても自然にその人の周りに人が集まり、介護人材探しに苦労することもない。そういう当事者もいることを私は知っています。

その人たちが介護者と営んでいる日々の生活の在り様を学びたいと思いはしますが、なかなかうまくいかないのが現実です。私なりの努力を重ねながら、重度訪問介護の制度を使った安定的な自立生活を継続していきたいと思っています。

私は肢体不自由の障がいを持っています。私と同じ肢体不自由の障がい当事者が中心となって作ったこの制度を活用するには、上記に挙げたこと以外にもたくさんの困難を乗り越える必要があります。

今回は知的障がいを持つ当事者が重度訪問介護を使って地域で自立生活を始めるに当たってのサポートをする活動のことに触れながら、この制度のさらなる充実と今後の課題をより鮮明に、個人が特定されない形で記していくことにより、地域生活の永続性や安定性について再度考えていきたいと思います。

さて、今日の本題は知的障がい者の地域での自立生活についてです。知的障がい者は、肢体不自由者と違って(といっても肢体不自由者も障がいの重複度や合併する疾患も違うので、一概に言い切れるものではありませんが…)本人が「自立生活をしたい」ということを明確に表出できないことがほとんどとされています。

実際にはそうではなく、それぞれが言葉ではないその人なりの表現方法を用いて、自分の意志を明確に表現している場合が大多数です。しかしそれを家族や支援者が的確に汲み取ることがむずかしいために、そう決めつけられてしまうことが多いのです。

そのため何の疑いもなく「老いや病気などで家族が介護できなくなったら、然るべき施設に入所させてあげることが正義である。それをもって、知的障がい者本人が一生涯安心した生活が送れる」と考え、それを幼いころから植え付けるような教育や訓練・指導がなされていることが大きな問題点だと私は強く感じます。

前例がまだまだ少なくノウハウの蓄積がないために、それが知的障がいを持った人たちのよりよい暮らしの在り様と考えている相談支援専門員(障がいを持つ人の生活を組み立てるために日常生活上の相談対応や助言、福祉サービスを受ける上での契約のサポート、各種調整を本人に代わって行う人)や成年後見人制度(一般的に本人に判断能力が喪失されていると法律的にみなされる人達の財産や権利を家族や親族に代わって保持する制度のことで、成年後見人は周囲の支援者や近親者からの申し立てによって選任される。国家資格を持ち、それらを管理・運用するための一定の要件を満たした者が成年後見人になれる)が非常に多いのです。

最近、ある地域で知的障がいをもつ人が自立生活を始めるに当たり起きた事例がそのいい例です。先に記したような考え方を家族や成年後見人が決めつけてしまっていることが問題の主訴となっています。

その当事者と毎日多くの時間をともにしている現支援者は、当人は十分に地域で自立生活を送ることができると確信しており、自立生活の拠点となる住居もすぐに入居できるまでに準備されています。それに加え、毎日の生活を支援していく介護事業所の目途もたっているのだそうです。

にもかかわらず、ご本人の過去に問題行動があって大変だったこともあり、地域での暮らしより入所施設の方が向いているという判断が下され、施設への入所が決まりかけているというのです。

「入所を撤回できないか?」「なにから始め、どのように動いたら施設での入所生活ではなく、地域での自立生活に切り替えることができるか?」という大変切迫性・緊急性のある相談が、ある障がい者団体の支援案件として舞い込んできました。

この事例と同様に、いったいどれだけの重度障がい者がいわゆる正義の名のもとに施設送りとなり、本人が望む生活ではない一生を運命づけられてしまっているのかということを考えると恐ろしく思えてなりません。

どんな障がいを持っている人でも、当たり前に地域で自立生活を営める社会となるために、クリアしなければならない課題が山積していると改めて思うのです。

今回の件は、相談を受けて間もないため、どこまで、そしてどのような支援ができ、相談者の望むかたちでの地域での自立生活が実現できるかは未知数なので、現時点ではなんとも言えません。

私の暮らす東京から遠く離れた地域での案件のため、直接当事者たちと会って話をしながら問題を一つひとつ解決していくこともむずかしいのが実情です。

先日zoomでこの件について会議をした後に、ご本人ともお話しました。好きなアニメのキャラクターの話が止まらない、とても人間的魅力にあふれた方で、この人のサポートに入る支援者は癒されること間違いなしという印象でした。

周囲から問題行動とされてしまっている部分にはちゃんとその人なりの理由があり、それを言葉にして伝えられないから行動しているに過ぎないのだということもよくわかりました。

現地の関係者たちと協力しながらこの人の自立生活実現を成し遂げることで、身体障がいだけでなく、知的障がいや精神障がいを持つ人が重度訪問介護を活用しながら地域で自立生活を送ることができるという実績をつくり、「前例がない」なんてお役所みたいなことを支援者に言わせない社会を作っていきたいと思いました。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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