私と重度訪問介護との出会いは今から約7年前のことで、本にも紹介されていた重度訪問介護従業者養成研修を私自身も受講しました。当時受けた研修は、実習を教室で行うスタイルを取っていて、研修二日目の夕方に電動車いすを扱う初老の男性障害者が若いヘルパーとともに現れ、実習と併せて障害者とは、ということを話してくださいました。
その中で今でも覚えているのが、「障害児の通う特別支援学校でもいじめはある。体の動く知的障害者が体の不自由な身体障害者を見下すことがあるし、逆に頭の働く身体障害者が知能に劣る知的障害者を馬鹿にしたりする」といった内容の話でした。
障害者も健常者同様に人間臭さというものを持ち合わせていて、良くも悪くも中味は同じ人間だということを知った瞬間であり、これが私の重度訪問介護の原点になりました。
その後私は数々の重度障害者の方々へのサービスに入りながら、自立生活運動について学んでいきました。「母よ、殺すな」「当事者主権」「福祉と贈与」「自立生活運動史」などの本を、著者に紹介されるままに読みつつ、このクライアントが自立生活をしているのは過去に青い芝の会の活動があったからだろうな、とか、このクライアントが今電車やバスにスムーズに乗れるのも自立生活運動の賜物だなと、重度訪問介護についてその歴史を踏まえて考えることができました。
しかし自立生活運動史にはないクライアントがいました。それがALSと闘う方々であり、意志の表現が難しい意識障害の方々でした。ALSの方々のケアからは今日この一日のクライアントの命を自分が預かる重さを、そして意識障害のクライアントと献身的に介護をするご家族の姿からは、生きることの一生懸命さを肌身で感じました。
一方で、著者の姿を傍らで見ていた中で、著書にあった福祉は清貧であるべきというステレオタイプの払しょくへの挑戦も魅力的でした。事業所の皆と見たマイケル・ポーター氏の動画で、高収益と社会貢献が両立し得ることを知り、事業所の増設とともに全国各地で働く仲間と利用者が増えていくたびに、今やっていることがソーシャルビジネスというものだということを体感していきました。
著書に登場するような多種多様なバックグラウンドのある職員との出会いも貴重な機会であるとともに、やはり大事だったのは、ある程度自分自身もこの高収益の恩恵に預かれたということでした。そして、福祉というハートウォーミングなことの実践と、個人の生活の豊かさの同時発生が、全然悪くない、という感覚になりました。
それまでは社会貢献と利益追求は二律背反にならざるを得ないという思い込みもありましたが、著者のリーダシップのもと、どちらもいいとこ取りをするという新時代の感覚も実現可能だと思えたのです。
私が著者のチームの一員になったのが7年ほど前ということもあり、本著に描かれていたことはある程度窺い知っていたように思います。ただ、その内容は断片的だったり、進行形で見聞きしていたことだったので、それが一冊の本にまとめ上げられたことで沿革が確固たるものになったように思います。
そして、読み進めるうちに自分自身をも振り返る機会となる章節があり、自分が今なぜ当社で働いているかということと今後もそうし続けたいと思うことに、自分自身での納得感を得ることができました。そして改めて著者や皆とともに当社の未来に対して、自分のためにも、皆のためにも希望を持つことができました。
◆プロフィール
吉岡 理恵(よしおか りえ)
1981年東京都生まれ。
東京都立大学経済学部卒業。
20代は法律系事務所にてOL、30代は介護・障害福祉分野で現場の実務や組織マネジメントを学ぶ。女性管理職応援中。
CLO 最高法務責任者