【「小さな声」を探し求める―「個」が躍動する組織のつくり方― 書評】第2回 S1グランプリ 矢田 良(ホームケア土屋 和歌山南)

『小さな声を探し求める』が教えてくれたこと ―紀南での僻地支援を通して―/矢田 良(ホームケア土屋和歌山南)

私がこの本を読んで最も心を動かされたのは、「小さな声を探し求める」という想いに共鳴した人たちが、一人ひとりの人生を大切にしながら、互いに支え合い、ともに歩み続けている組織であるということだった。

本書には、創業メンバーそれぞれの挫折や苦悩、介護との出会い、そして声にならない心の声に耳を傾け、行動し続けてきた姿が描かれている。しかし、本書の魅力は十五人の半生を紹介することだけではない。

それぞれ異なる人生を歩んできた人たちが、「小さな声を探し求める」という想いのもとに集い、その想いを組織の文化へと育んできた過程が描かれている点にある。

私はこの本を通して、土屋という会社は利益を追い求めることから始まったのではなく、目の前の人に寄り添い続けた結果として形づくられてきた会社なのだと感じた。
そして、その姿勢は、現在私が紀南地域で取り組んでいる僻地支援そのものと重なった。

現在、私は和歌山県と三重県の県境にある紀南地域で、重度訪問介護が十分に届いていない地域へ支援を届ける取り組みを行っている。

事業所を開設してからは、病院や相談支援事業所、訪問看護ステーションなどを訪問し続けた。
しかし、「この地域に重度訪問介護のニーズはない」「他のサービスを提供した方がよい」と何度も言われた。

それでも、「重度訪問介護を必要としている人は必ずいる」という思いだけは揺らがなかった。

そんな声も受け止めながら活動を続けていると、ある病院の職員の方から、「筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病の方など、支援を必要としている人は多くいます」と教えていただいた。

それから少し経った頃、事業所を開設して初めて、「土屋の重度訪問介護を利用したい」とご依頼をいただいた方がいた。
私たちにとって、この地域で初めての支援につながる大切なご相談だった。

翌週にお会いする約束を交わし、この地域で支援が始まることを楽しみにしていた。
しかし、面会を目前にして、「ご本人がお亡くなりになりました」という連絡が入った。

「もっと早く出会えていたら」という悔しさは、今も忘れられない。
この出来事をきっかけに、「必要としている人がいるのに支援が届いていない現実を変えたい」という想いは、より強くなった。

その後、「こんなサービスがあるなら、もっと早く知りたかった」「利用したいので枠を空けておいてほしい」という声をいただき、実際に支援が始まった。

疲れた表情だったクライアントの目に少しずつ力が宿り、表情が柔らかくなっていく姿を見るたびに、重度訪問介護は単なる介護サービスではなく「この地域で暮らし続けたい」という願いや、その人らしく生きる希望を支えていると感じる。

本書を読み終えた今、私が改めて心に刻んだのは、「小さな声を探し求める」という想いを持ち続け、行動し続けることの大切さである。

待っているだけでは、小さな声に出会うことはできない。
自ら地域へ足を運び、耳を傾け、行動し続けることで初めて出会える。

そして、その積み重ねが人をつなぎ、組織を育て、やがて地域や社会を変えていくのだと、この本は教えてくれた。

本書は、創業メンバー十五人の歩みを知るためだけの一冊ではない。

「小さな声を探し求める」という想いが、人を動かし、組織の文化として育まれ、社会へと広がっていく過程を教えてくれる一冊である。

私もこれから、重度の障害があっても、誰もが住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる社会を目指し、「小さな声を探し求める」という想いを胸に、一歩ずつ歩みを進めていく。

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