【「小さな声」を探し求める―「個」が躍動する組織のつくり方― 書評】第2回 S1グランプリ 増子 大介(土屋の里品川)

豊かな関係性が生まれる秘密 〜『小さな声を探し求める』を読んで〜/増子 大介(土屋の里品川)

―40年前に出会った「豊かな関係性」の原点―

1985年、私は奈良で重度脳性マヒ者の自立の家づくり運動から生まれた「たんぽぽの家」で働き始めた。
当時彼らは高校卒業後の行き場がなかった。

そこで、資金的・制度的な裏打ちもないなか、数えきれない熱心なボランティアが関わって「自立援助センター」が誕生した。

そこで私が何よりも心を動かされたのは、人と人との関係の豊かさだった。
利用者を大切にすることと、職員を大切にすることが自然につながっていた。

誰かが失敗しても責めるのではなく支え合い、挑戦を後押しする。
一人ひとりの個性や人生が尊重される、温かなコミュニティがそこにはあった。

―あたたかなコミュニティの秘密-

ちょうどその頃、街にも重度障害者の方たちが自らボランティアを組織し、それこそ命がけで自立生活する姿があった。
私も縁があり何人かに関わった。そしてしばしば、当事者を核とした豊かなコミュニティに出会い感動した。

「たんぽぽの家」と「自立生活者たち」のいずれにも素晴らしい人垣があった。
どちらもその中心には、主体的に困難を乗り越えてよりよく生きたい、と願う親や当事者の熱い想いがあった。

―土屋で感じた懐かしさ―

その後、いくつかの業界や職場を経験した後、3年前に株式会社土屋の社員となった。
そして、初めて就いた宮城県の共生型デイサービスで、不思議と懐かしさを感じた。

そこには「あたたかく、なごやかな空気感」があった。私がかつて40年前に体験した「たんぽぽの家」のそれと似ていた。

当時は、営利法人で『社会課題をビジネスで解決する』土屋、という理解だったので驚いた。
何か秘密が隠されている、こんな疑問をいだき3年目を迎えた今回、この本を読むことによって、遂にこの秘密が明らかになった。

―「見守り」は人を信じる思想-

土屋は、重度訪問介護をその中心事業に据えて歩みを進めてきた。
この本の筆者のひとり安積遊歩さんは、重度訪問介護制度の最大の革新的な部分は「見守り」を「介助」と認めさせた点にあり、単なる介助サービスではなく、その人の人生をどう支えていくかという視点が、制度の根底にあると記述されている。

「見守る」とは、相手の生きる力を信じることであり、共に生きることだ。

土屋には『見守る』ことを学んだ人が作る関係性の豊かさがある。
見守ることで学ぶことのできる、他者との距離の取り方。その思想が利用者との関係を育て、さらに職員同士の関係にも広がっていく。

人を信じる、人に任せる、人の可能性を待つ。
これらのことを組織的に学ぶ構造があり、それを文化にまで昇華するしくみがそこにあるのではないだろうか。

―本書が教えてくれたこと―

本書には15人の歩みが描かれている。
経歴も立場も実に多様だが、共通していたのは、誰一人として完成された人間として描かれていないことだった。
迷い、失敗し、遠回りをしながら、小さな声に耳を澄ませ、自らも声を上げ続けてきた。

その一人ひとりの人生が、株式会社土屋という組織を形づくってきたのである。

私はこの本を読んで、自分が感じていた空気の正体に気づいた。それは企業理念だけではない。
重度訪問介護という制度そのものが、一人の利用者の暮らしに深く入り込み、その人の「小さな声」に寄り添うことを求める制度だからではないか。

利用者を「サービスの対象」としてではなく、一人の生活者として理解しようとする。
その関係性のあり方が、やがて職員同士の関係にも広がり、「人を大切にする文化」を育てていく。

つまり、組織文化は理念だけで生まれるものではない。利用者との関係性の積み重ねが、職員同士の関係性を育て、組織全体の文化を形づくっていくのである。

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