
「小さな声」を探し求める――あの日、文字盤が私に教えてくれたこと/小川 力信(ホームケア土屋関東ブロック)
『「小さな声」を探し求める―「個」が躍動する組織のつくり方』を読んで、私は一つの問いを自分に投げかけた。
私は、本当に小さな声を聴けているのだろうか。
管理職になると、どうしても数字を追いかける。
売上、利益、稼働率、離職率、生産性。
組織を運営するために欠かせない数字であることは間違いない。
しかし、本書は、その数字の向こう側には、一人ひとりの人生があり、その人生に寄り添うことこそが組織を強くするのだと教えてくれた。
その言葉を読みながら、私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、重度訪問介護の現場で出会った一人のクライアントだった。
その方は文字盤で意思を伝える方だった。
ある日、私はいつものように支援をしていた。精一杯やっているつもりだった。
ところが、文字盤を示す眼球が、一文字ずつ言葉を紡ぎ始めた。
「あなたは冷たい人間だ。」
息をのんだ。
続いて示された言葉は、
「人として足りていない。」
一文字ずつ示されるその言葉は、どんな大声よりも重く、私の胸に突き刺さった。
「そんなつもりじゃない。」
「こんなに頑張っているのに。」
そう言い返したい気持ちでいっぱいだった。
逃げ出したくなるほど苦しかった。
しかし、その方は私を傷つけるために文字盤を使っていたのではない。
長い時間をかけ、自分の思いを必死に伝えようとしていたのだ。
私はそのとき初めて知った。
支援とは、相手の声を「聴く」ことだけではない。
自分にとって都合の悪い言葉や、耳の痛い言葉であっても、受け止める覚悟を持つことなのだと。
『「小さな声」を探し求める』を読んだ今、あの日の出来事がまったく違って見えるようになった。
私はずっと、「厳しいことを言われた経験」として記憶していた。
しかし違った。
あれは、その方が私に届けてくれた、最も大切な「小さな声」だったのである。
本書に書かれている「小さな声」は、感謝や優しさだけを意味していない。
怒り、不満、失望、諦め。
そうした感情もまた、その人が勇気を振り絞って差し出してくれた、小さな声なのだ。
そして、小さな声は待っていても聞こえてこない。
こちらから歩み寄り、耳を澄まし、ときには自分の価値観やプライドを脇に置いて初めて、その奥にある本当の思いに触れることができる。
現在、私は管理職として多くのアテンダントと向き合っている。
退職面談で「人間関係です」「家庭の事情です」と話すアテンダントもいる。
しかし、本当はもっと前から、小さな声があったのではないかと思う。
「少し話を聞いてほしかった。」
「相談したかった。」
「認めてほしかった。」
クライアントもアテンダントも、人は突然声を上げるわけではない。
何度も何度も、小さなサインを送り続けている。
その声を拾い、受け止めることこそが、人を支え、組織を支えることなのだと、本書は教えてくれた。
私は以前、「強い組織」とは優秀な人材が集まり、高い成果を出す組織だと思っていた。
しかし今は違う。
強い組織とは、小さな声が消えない組織である。
そして、その小さな声を受け止める覚悟を持った人がいる組織である。
私は重度訪問介護の現場で、介護技術だけではなく、「受け止める覚悟」をクライアントから教えていただいた。
その経験があったからこそ、この本の一つひとつの言葉は知識ではなく、自分自身の人生と重なり、深く心に刻まれた。
最後に、あの日、文字盤で私に厳しい言葉を伝えてくださったクライアントへ、今だからこそ伝えたいことがある。
「あの日の言葉は、私を否定するための言葉ではありませんでした。支援者として、人として成長するための贈り物でした。あの日の厳しい言葉が、今の私の支援と組織づくりの原点です。本当にありがとうございました。」
これからも私は、数字だけではなく、その数字の向こう側にいる一人ひとりの人生を見つめ続けたい。
クライアントの小さな声。
アテンダントの小さな声。
そして、自分自身の心の小さな声。
それらを探し求め、受け止め続けること。
それこそが、「個」が躍動する組織をつくる第一歩であり、私がこれからも大切にしていきたい支援の原点である。





















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