〜再生可能なコミュニティー〜
高知東生さんのお話を聞いて
コミュニティーの重要性
広島県福山市で開催されたイベントで、俳優の高知東生さんのお話を聞くことができました。
高知さんは薬物依存症の当事者であり、芸能活動をしながら仲間とともに回復に努めてらっしゃいます。
そんな彼が、自助グループでのスピーチさながら、自分が薬物に依存せざるを得なかった背景、個人史、考え方のゆがみ、そして心の傷について、赤裸々に語ってくださいました。
自分自身の過ちを素直に認めながら、自らを「回復途上」と呼び、真摯に取り組んでいる姿勢に、同じく「回復途上」にあるものとして、共感と尊敬と親愛の感情を抱きました。
また高知さんのようにある種の「失敗」をした人が、心理的安全性を保証された場所で、自分と向き合い、悔い改め、再生することが許されるコミュニティーの重要性を再認識させていただきました。
高知さんはそのようにして「再生」する機会が与えられることにより、今は同じ病からの回復に努める仲間たちを支援することができています。
薬物依存症が「死に至る病」であることは周知の事実です。だとしたら、彼の支援活動は私たちが重度障害者や難病の方々に提供しているケアサービス同様に、命を支え、命を救う、いまウクライナの地で起きている戦争とは対極の、平和に向けた活動といっても過言ではないと思います。
失敗したにも関わらず、むしろ失敗したからこそできる、サポートというものもあるんだということを、あらためて認識させていただきました。
高知さんもアディクションの最中にある時、大切な人を傷つけ、隣人に迷惑をかけることを繰り返してきたんだと思います。私自身がアディクションの最中にあったときにそうであったように。
再生する場所
しかし、社会は私たちに、反省し、悔い改め、新しい生き方を選ぶ機会を与えてくれました。私たちは再生するチャンスを与えていただきました。高知さんが何度もおっしゃっていたように、私自身もそのような社会に深く感謝し、迷惑をかけた人たちに償いたい、恩返しをしたいという思いでいっぱいです。
もし私たちにそのような機会が与えられなかったら、高知さんは同じ薬物依存症の仲間をサポートする活動はできなかったでしょう。私自身も株式会社土屋を立ち上げ、難病の方々や強度行動障害の方々、認知症の方々を支援する活動はできなかったでしょう。
ウクライナの地でも、傷ついているのは市民だけでなく、兵士もまたしかり、幸い生き延びることができた人たちも、その多くがPTSDに苛まれるに違いありません。早く平和が戻ってきて、傷だらけの兵士たちにもその心の傷と罪悪感から回復するための心理的安全性が保障された場所、すなわち再生の機会が与えられることを、祈るような気持ちで待ち望みたいと思います。
生き直す場所、やり直す場所、再生する場所は、個人にとっても、そして社会全体にとっても、本当に重要だと、心から思います。
そして、私自身が経営する株式会社土屋も、そんな場所でありたいと、心から思います。
お仕事をしていると、人間誰しも順風満帆とばかりは言えず、失敗してしまうこともあります。迷惑をかけたり、他者を傷つけてしまったり、信頼を裏切るような行為をしてしまったり、与えられた職務を十分に果たせないことも、時としてあります。もちろんその時は無罪放免とばかりは言えず、一定の責任を取ってもらう必要はありますが、それでもなおかつ再出発の機会は提案していきたいと思います。
それぞれが「高知東生さん」になれる可能性を信じたいと思います。
治療共同体に対する住民感情
依存症からの回復途上にある私たちは、心の傷や罪悪感が、他者の人生をよりよくすることにより深くコミットするための、むしろ重要な資源にさえなりうることを、治療共同体で学ばせていただきました。
一方、いま全国でこのような再生の場所、治療共同体が設立されることに対する反対運動が過熱しているそうです。依存症になるような「ろくでなし」に接近してほしくない、隣人になるのはまっぴらだ、という住民感情が背景にあるようです。株式会社土屋においても、やらかしてしまった人に対する再生プロジェクトが全会一致で賛同されているかというと、どうやらそうでもないみたいです。
治療共同体に反対する住民感情と、障害者は施設や病院にいるべきだという市民感情と、難民を排斥するナショナリズムと、それから失敗した人を許さない社会的風潮は、その本質は共通のものがあると感じるのは、私だけでしょうか。
そんな排他的感情に支配されている人たちに、問いたい。
「本当に貴方は他人に迷惑をかけたことがないんですか?」
「本当に貴方は他人を傷つけたことがないんですか?」
「本当に貴方は他人を欺いたことがないんですか?」
「本当に貴方は自己防衛のために偽りを述べたことはないんですか?」
「本当に貴方は失敗したことがないんですか?」
すべての問いにNOと答えた方に対しては、沈黙したいと思います。
しかし、1つでもYESと答えた方に対しては、こう呼びかけたい。
では、仲間のため、そしてあなた自身のために、再生可能なコミュニティーを共に紡いでいきませんか?と。
高知東生さんがそうであるように、傷ついているからこそ、傷つけてしまったからこそ、できる支援があるのだから。
精神科医のジュディス・ハーマンがそれをサバイバーミッションと名付けたように。
株式会社土屋
代表取締役 高浜 敏之