『異端の福祉』S1グランプリ 受賞作品【 特別賞 】介護福祉から人生を学ぶ / 鈴木奈々恵(ホームケア土屋 仙台)

介護福祉から人生を学ぶ / 鈴木奈々恵(ホームケア土屋 仙台)

本を読み終えた後で、ふと祖父のことを思い出しました。父子家庭だったこともあり、幼少期は祖父や祖母と多くの時間を過ごしました。

私が中学生の頃、病気を機にベッドで寝たきりとなった祖父の介護を、祖母が中心となり、兄妹で分担しながらの生活が1年ほど続きました。

日中のパート仕事や孫の育児という状況も重なり、疲弊した祖母の両手には強く握りしめられた包丁と、視線の先に祖父の姿。

その時の光景は、約30年経った今でも昨日のことのようにはっきりと目に焼き付いて離れません。

当時の私は祖母の行動が理解できず、止めることだけに必死でした。
しかし、私が当時の祖母の立場だったなら、途中で逃げ出していたに違いありません。
というのも、私が産まれる前の祖父は毎日昼からお酒を浴びるように飲み、子ども達は裸足で逃げ回わらなければいけないほど暴れん坊だったと、生前の祖母に聞かされていたのです。

そんな祖父を見捨てることもせず、重度の障害があっても寄り添い続け、在宅介護を選択した祖母は私の母でもありながら、介護に携わる上での大先輩でもあります。

もし現在も祖父が生きていたなら、重度訪問介護を利用させて頂きたいと切に願ったはずです。きっと“隠れたSOS”は今もなお、多くあるような気がしてなりません。長く歴史の中で根付いてしまった固定観念により、自宅で暮らせないと思っている当事者の方も少なくないと思います。

支援制度があるのにサービスが利用できないという状況を変えていく為にも、重度訪問介護をより多くの方に知って欲しいという気持ちが私の中に生まれました。この一冊がまた、そのきっかけにも必ずなると信じています。

私自身はまだまだ学びの発展途上にありますが、クライアントの人生に寄り添い、当たり前のように自由でその方らしい毎日を送れるよう、日々努めていきたいと思います。そして、支援を必要とする一人でも多くの方にサービスを届けていく為に自分ができることは何か、これから探し続けていきたいです。

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