土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉚ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

30 土屋の12のバリュー⑥

寛容であれ、肯定的であれ、かつ、批判的であれ

私たちは多様性を限界まで追求したいと思っている。私たちは多様な社会の実現への道を歩んでいる。そのためには、まず私たちが寛容でなければならない。「裁き」ではなく、「ゆるし」を基調とした文化をコミュニティーの中に根付かせていかなければならない。そのためには、私たちが他者の個性や属性に対して肯定的でなければならない。排他的文化は自分と異なる個性や属性や能力を持つ他者に対する不寛容と否定性から生まれる。

しかし、これは決して簡単なことではない。むしろ到達することが不可能な、自分自身への挑戦ともいえる。そもそも自我とは、他者の他者性を否定するところから生まれる。私たちは、幼少時の「いやいや期」や、思春期の「反抗期」を経て、「自分」というものの輪郭を形作る。「でも」や「ノー」は、私が私になるために必要不可欠な意思表示だ。だから、「寛容」への道は、「でも」に対する「でも」であり、「ノー」に対する「ノー」でもあり、否定に対する否定ともいえる。

自己否定を通じた自己超越の先に他者への寛容と肯定が立ち現れてくる。自分が年月や学習を通じて形成した価値観や判断基準やそれに基づく好悪感情をいったん棚上げして、意志的に受容を選択するところに寛容と肯定の倫理があるのだとしたら、これはビジネスにおける態度設定というレベルを超えて求道的なテーマとすら思える。

私たちはソーシャルビジネスを通じてある思想を超えていきたいと考えている。その思想は優生思想と呼ばれる。優生思想をある人はこのように定義した。「この世の中には生きている価値のある存在と生きている価値のない存在の区別が存在する。そのように考える思想を、優生思想と呼ぶ。」

その思想に囚われたある人が数年前に、一夜にして数十名の知的障害を持った方々を殺傷した。犯人は、「生きていてもなんの価値もなく他人に迷惑をかけるだけの人たちを殺したことに対して全く後悔も反省もない」と裁判で語った。優生思想こそが、不寛容と否定性の究極的な姿とも思える。

私たちは反優生思想をモットーとした集団だ。なぜならば、この優生思想は、ずっと、私たちがいま現在支援させていただいている障害や疾病を持ったクライアントの命と生活を脅かしつづけてきたから。そして、この優生思想との闘いから生まれたサービスが重度訪問介護というサービスであり、このサービスを使っての障害者の地域における自立生活は、障害を持った方々を施設や病院に押し込める社会的排除と不寛容に対する抗議声明とも思えるからだ。

重度訪問介護というサービスには、障害者運動の活動家の、優生思想に対する闘いの記憶と、それから多様性を否定する不寛容や排他性に対する抗議のメッセージが書き込まれていると私はとらえている。そのような歴史の証言者の一人としてあり続けたい、この記憶を忘れてはならない、伝承していかなければならない、と考えている。そして、この社会的排除の被害者がそれへの抵抗から生み出した寛容と肯定の思想は、よりよい社会を作っていくために、そして様々なコミュニティーの質を高めるために、非常に有用な普遍性のあるものだという確信がある。

この寛容と肯定の倫理が、健全な批判精神に支えられたとき、私たちは私たち自身が獣道に迷い込むリスクを回避することができる。複眼的思考という言葉がある。信じることと疑うことは同居できる。肯定することと批判的であることは同居できる。存在や未来の希望や理念を信頼し、他者の存在を寛容に歓待しながらも、「外」の視点を見失うことなく、健全な懐疑精神を手放すことなく、「でも」や「ノー」とつぶやき続けながら未来の希望に向けて歩み続けることはできると信じている。

寛容であれ、肯定的であれ、かつ批判的であれ

これこそが、若かりし日に参加した障害者運動という注目すべきムーブメントから私自身が受け取ったメッセージの核心である。

障害福祉にかかわる者として、1000人を超える希望の組織の代表者として、そしてより良い人生を歩みたいと思っている一人の人として、日々自分自身にそう呼びかけながら、これからも仕事をしていきたいし、生きていきたい。心からそう思う。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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