次々と起こる事件 障害×女性 / 田中恵美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

またまた時間がたってしまった💦
今回もある事件を通して障害×女性+男性の責任ということを考えていきたい。

2020年3月3日、知的障害者の就労支援施設で生まれたばかりの子どもを便器に押し込んで死亡させる事件が起こった。殺人容疑で逮捕されたのは出産した女性、この施設の利用者だった。

私がこの事件を知ったのは、今年の5月のことだった。熱心に取材をしている新聞記者からの相談で、この事件についてのコメントを求められたのだった。高裁の判決が出たのは6月で、記事にするのはその後ということだった。その後追加の調査後、それらの情報も含めてコメントし、記事は10月に配信となった。

記事によれば、女性は元施設職員だった男性と交際し、性的関係を持っていた。男性は「子どもができたらその時に考えればいい」と思い、避妊をしなかった。出産日まで、本人を含め誰も妊娠に気づくことはなく、当日、女性は生理痛と間違え、トイレで子どもを出産し、動揺して出産後トイレのふたを閉めてしまった。一審の判決は有罪で懲役3年だったが、控訴し、高裁では保護観察付執行猶予5年となった。

当初私に相談してきた記者は、女性に性教育がなされなかったことが問題ではないか言ったのだったが、私はそれは枝葉の問題で、根本の問題ではないと答えた。この状態でたとえ女性に性教育がなされていたとしても、結果が大きく異なっていたとは思えなかったからである。もちろん性教育はされていなくてはならないのだが。

最も緊急性の高い重要な問題は、本来守られるべき母親とその子どもの命が非常に危機的な状況におかれていたことだ。彼女はたった一人でトイレで出産したのである。しかも3月の、北海道の施設のトイレで4時間も放置され、体が冷えてぐったりとしていたという。一歩間違えれば女性だって命の危険にさらされるような状況だったのだ。このことに気づけなかった施設の対応はもっと責められてよいのではないか。当日だけではない。女性は寮で暮らし、平日は毎日就労支援事業所に通っていた。事件の起こる少し前に施設で温泉に出かけていて、女性の体もみていたのにもかかわらず、妊娠に気づかなかった。

職員はどう利用者と接していたのか。女性は反対されると思って、男性との交際を公にできなかったとある。交際を禁止し、障害者を無性のように扱ってきたのではないだろうか。

もっと罪深いのは、男性の責任が明確になっていないことだ。すでに述べたように、この事件の容疑者は出産した女性だけである。妊娠は一人ではできないのに、男性は何の罪にも問われていない。しかもこの場合、女性には知的障害があり、判断能力に課題があるにもかかわらず、である。男性は裁判の意見陳述でも女性を性のはけ口にしていたと述べたが、それでも罪に問われることはないのだ。さらに男性は元施設職員だった。職業倫理としても問題があるのではないだろうか。他の施設で、同じようなことを繰り返さないとも限らない。

保護観察付執行猶予5年、彼女は同じ施設に戻って生活をしている。本当にそれでいいのかと思うが、他の選択肢がないのだろう。今後の女性の人生が少しでも自分の思いが実現するものであってほしいと願わずにはいられない。

2021年10月12日「施設のトイレで窒息死した乳児 事件は防げなかったのか」https://nordot.app/818760495062138880

2021年10月13日「我が子の命奪ってしまった罪、どう償えばいい」 https://nordot.app/818776329782673408

 

◆プロフィール
田中 恵美子(たなか えみこ)
1968年生まれ

学習院大学文学部ドイツ文学科卒業後、ドイツ・フランクフルトにて日本企業で働き2年半生活。帰国後、旅行会社に勤務ののち、日本女子大学及び大学院にて社会福祉学を専攻。その間、障害者団体にて介助等経験。

現在、東京家政大学人文学部教育福祉学科にて、社会福祉士養成に携わる。主に障害分野を担当。日本社会福祉学会、障害学会等に所属し、自治体社会福祉審議会委員や自立支援協議会委員等にて障害者計画等に携わる。

研究テーマは、障害者の「自立生活」、知的障害のある親の子育て支援など、社会における障害の理解(障害の社会モデル)を広めることとして、支援者らとともにシンポジウムやワークショップの開催、執筆等を行い、障害者の地域での生活の在り方を模索している。

 

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