地域で生きる/21年目の地域生活奮闘記52~地域で暮らす中で酉の市について思うこと~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

今年も浅草の酉の市の季節がやってきました。今回は、二年間の自粛期間を経て通常開催されることになりました。浅草の街の古くからの伝統を伝えるお祭りなので、酉の市が開催できるほどコロナ禍から世の中が回復しつつある事は、とても喜ばしい事なのだと思います。

コロナ禍で生活を守るために必死に働くだけで娯楽は出来ない世の中でした。それは障がいの有無に関係なく精神的な豊かさを削がれながら生きていくこととなり、何のために生きるのか?この先の希望は何かあるのか?など、少々哲学的に考えたくなるような生きづらさを助長する社会の歪みへと繋がっていくような気がしていました。そんな風潮を和らげてくれるのがお祭りだと思います。

酉の市とは11月の酉の日の日数によって二の酉の年や三の酉の年が交互に訪れます。午前0時から次の日の日付が変わる前までの時間、夜通し行われるという珍しい開催形式のお祭りです。今は商売繁盛だけではなく家内安全、無病息災、アマビエ等このお祭りにかける願いも現代の世相を反映して変化してきているようです。

私はあまり占いや縁起担ぎのような事は信じずに過ごす性分です。現実に起こっている事を直視しながら対処を考え堅実に生きていきたいと思いながら暮らしています。たまには神頼みもしてみたらもっと「なんとかなる」をモットーに気楽に構えて生きていける人間になれるのかもしれないと思います。

酉の市はその年の次の年の干支があしらわれた熊手を販売するお祭りです。神社の周辺の公道に鉄パイプで作ったやぐらを設置し、そこに熊手を飾っています。一番小さなものから買い始めて毎年大きくしていくことで商売が繁盛したり、望みが叶うようになっていくとされております。会社関係で肩に担がないと持ち切れない程の大きな熊手が売れたりすると、はっぴを着た店員さんがこぞって柏手を打って繁栄を称えてくださいます。

私はそのお祭りの真っ只中に住んで十年以上となります。江戸時代から脈々と伝わる伝統のお祭りなので、昔はたぶん建物もなかったと思います。しかし現在では住宅が立ち並び、近所に台東区立の病院が出来て道は大変狭くなっていても昔と同じやりかたで開催しています。その為、ラッシュアワー並みの混雑を立ち止まるなという雰囲気の中で、買い求めたいものを見定めなければならないのです。

私のような大きな電動車椅子で見て歩くには、とてもゆっくりは見られない状況となってしまいます。今年はコロナの感染もまだまだ怖いので、熊手以外の飲食の露店は立ち寄らず飲み食いは一切しない状態で帰ってきましたが、車椅子で祭りを楽しむ事の難しさをしみじみと感じました。

危なくない事を考えるならば、通常の買い物を時たまそうしているのと同じように介護者に買ってきてもらうという方法で熊手をGETしても良いのだと思います。お祭りで手にしたいものはその雰囲気を味わう事も楽しみの一つです。そんな想いから、買ってきて熊手が手に入ったというだけではつまらないので、人ごみを承知で行くのです。

しかし熊手の飾ってある前は鈴なりの状態で、立っている人にとってはそこに空間があるのかと思わせてしまい、もっと前に詰めて歩いてください。という無言の圧力を感じる事となります。

普段このような事が起きるのは、社会参加活動に向かう満員電車の中です。なるべく混雑する通勤時間帯を避けて行動できるよう考えてはいるのです。しかしながら、そうも言っていられない時も相手のある活動の時には出てきてしまいます。車椅子は低い存在なので見えないのです。だから健常者もぎゅうぎゅうと押してきて困ってしまうのです。

仕方がないので「車椅子がいます」と大きな声で伝え、押し込むことをやめてもらうよう働きかけていくことになります。そしてその状況から抜け出す事も、その状態になると介護者が誘導しても容易ではなくなってしまうのです。

恐怖感を感じてしまっては楽しむどころではなくなってしまい、いつも残念な思いに駆られながら、ようやっと帰宅しぼろぼろに疲労するという結末になります。少し残念な気持ちで酉の市の時期を過ごす事になってしまうのです。何をするにも障がいというものが付きまとってしまう事に寂しさを感じてしまう酉の市のある11月なのでした。

本当の意味で楽しいと心から思える娯楽は、障がいが重度になればなるほど少ないと思います。コロナ禍が本当に収まって仲間が集まり、露店の居酒屋でつまみを片手に談笑していても大丈夫な時が一日も早く戻ってきて欲しいと思います。

私は太ってしまう事を気にしつつも、美味しいものを食べる事には障がいが今のところないというのが唯一のとりえです。近所でやっている酉の市だけではなく、状況を見ながら地方のお祭りにも出掛けて、ついでに土地の地魚や海産物等、その土地でしか口に入らない美味しいものを食べる事の出来る日を楽しみに、日々大変な介護者の確保の為の研修や育成を乗り切っていこうと考えています。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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