SDGsに貢献していると言ってよい条件~4.企業にとってSDGsのメリットは何処に / 影山摩子弥

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

『SDG Compass』は企業向けの手引書である。目次の次のページには、企業にとってメリットがあると書かれている。自社のメリットを考え、社会的課題に取り組んでもよいのである。古代中国との交流の中で「陰徳陽報」や「公平無私」といった考え方が入り込んだ日本では、「良いことは陰に隠れて」「自分の利益は考えずに」が美徳とされ、慈善事業の主体が表舞台に出たり、アピールしているかのように見えたりした場合、売名行為と批判されることとなった。

しかし、近年では、企業が自社のメリットを得つつ社会課題に取り組むことに寛容な傾向が感じられる。前回触れたように、環境問題や地域の疲弊、こどもの貧困、障がい者雇用など、社会課題への取り組みが、売上や顧客の評価、社員のモチベーション、労働生産性の改善、イノベーションなど、企業のメリットをもたらす事例が多く見られるようになった。その意味で社会性戦略の時代なのである。

ではどうしたら『SDG Compass』が謳うような企業にとってのメリットを引き出せるのであろうか?『SDG Compass』 を読んでも、戦略化の方法は書かれていない。SDGsの課題領域に対する影響の大きさから取り組みを導出する方法は書かれているが、それに経営戦略的意味を付加する細かい手法は書かれていない。

世界のあらゆる人や組織が取り組めば、SDGsも達成しやすいはずである。だとすれば、企業の取り組みを促す情報を積極的に提供すべきである。大企業の経営企画室であれば専従の担当者もいるであろうが、特に中小企業向けにもう少し噛み砕くか、戦略化の過程を簡易化して示す必要がある。SDGsは、中小企業も含めてすべての人や組織が取り組むことに意義がある。それを促す工夫が必要である。

しかし、もっと致命的なことがある。何をもってSDGsに貢献していると言えるのかの解説がないのである。17のゴールの文言に関わりそうなものであれば、何でもよいわけではない。会社の敷地の空きスペースに植木鉢を置けば「15陸の豊かさも守ろう」になるわけではないのだ。この点に関しては、ターゲットに貢献しているかどうかが重要であることは記した。

たとえば、森林回復の植林事業に参加し、一定の面積の森林を回復させている場合、「15.2 2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる」に貢献していることになる。

しかし、ターゲットには、「あらゆる種類の森林」だとか、「世界全体で・・・大幅に増加させる」などとある。ここだけ読むと、中小企業では、あらゆる種類の森林への貢献はできないし、大幅に増加させることなどできない、となりかねない。また、1.2は「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる」だが、半減させるなど一介の企業には無理、となりかねない。

もちろん、既述のように世界の取り組みを積み上げ、2030年までに半減させればよいのであるが、それが分かりやすく記載されていないのである。SDGsでは、17のゴールと169のターゲット、さらに231の指標(重複を入れると247)が示されているだけで、肝心の解説がない。

実態を伴わないケースを「SDGsウォッシュ」として批判する声が聞こえるが、悪意だけでウォッシュが生じているわけではないように思われる。どうであれば取り組んでいることになるのかを、豊富な例示で分かりやすく説明できていれば、避けられたのではないだろうか。

 

◆プロフィール
影山摩子弥(かげやままこや)

研究・教育の傍ら、海外や日本国内の行政機関、企業、NPOなどからの相談に対応している。また、CSRの認定制度である「横浜型地域貢献企業認定制度(横浜市)」や「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度(宇都宮市)」、「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を担い、地域および中小企業の活性化のための支援を行っている。

◎履歴
1959年に静岡県浜北市(現 浜松市)に生まれる。

1983年 早稲田大学商学部卒。

1989年横浜市立大学商学部専任講師、2001年同教授、2019年同大学国際教養学部教授。

2006年 横浜市立大学CSRセンターLLP(現 CSR&サステナビリティセンター合同会社)センター長(現在に至る)

2012年 全日本印刷工業組合特別顧問 兼 CSR推進専門委員会特別委員(現在に至る)

2014年 一般社団法人日本ES開発協会顧問(現在に至る)

2019年 一般財団法人CSOネットワーク(現在に至る)

◎専門:経済原論、経済システム論

◎現在の研究テーマ:地域CSR論、障がい者雇用

◎著書:
・『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)
・世界経済と人間生活の経済学』(敬文堂)

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