もう、頬杖はつかない Part 1 / 古本聡

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

確か、40年くらい前に同じタイトルの映画があったのをふと思い出した。奥田英二と桃井かおりが主演だったかな。若い女性が2人の男たちにこねくり回されながらも自分の生きる道を見つけていく、というスジだったと思う。うろ覚えだが。

奥田英二も桃井かおりも、それから、当時からイイ味を出していた脇役の森本レオも、みんな 齢とったよなぁ、…、って、お前もなぁ~、と自分に突っ込みを入れる今日この頃。

そうだ、今日書こうと思ったのは映画のことではなく、自分の加齢と、それに伴う障害の変化についてなのだ。

年を取るうちに、ただでさえも少なかった自分の身体機能の面で、今まで出来ていたことが出来なくなってきた現実を直視しないわけにはいかなくなってきた。これは、元々の障害が悪化したというよりは、加齢が原因なのだ。順番としては、加齢が先にあって、それが障害から来る不便さを増大・増幅させているだけなのだが・・・。

鍼灸・マッサージ、ブロック注射などの対処療法で緩和を図っていったとしても、このままいくと、座ったら座ったきり、寝たら寝ころんだきりで動けなくなるかもしれない。それはそれで、恐怖ではある。

50台前半までは、それまで普段なら難なくやっていたことをある日突然失敗してしまったときなど、上で書いたような恐怖に苛まれることが割とよくあった。2、3日は、それこそ仕事机に頬杖をついて考え込んでいた。

そんな状態に陥った私に、ある日妻が、よっぽど私のヘタレた姿が嫌だったのか、こう言ってのけた。

「私はあなたが最高潮に動けてた時期を知らない。出会ったときにはもう今とあまり違ってなかったわよ。辛いのはわかる。けど、失敗が増えたり、出来ないことが増えるたんびに暗い顔になって、重い空気を家中にまき散らさないでよね! どんなことになったって、こっちはとっくに覚悟出来てんのよ。」

ハリセンで後頭部を思いっきり叩かれてハッと我に返った気分だった。

「そうだよな、俺はもっと楽観主義者、いや享楽主義者だと兄貴に揶揄されるほど暢気者だったはずだ」、

と私の中で何かが吹っ切れた。あれから私は、それこそ”頬杖をついて”考え込むのを止めた。少なくとも(頭髪が寂しくなっていくことを除く)自分の身体の衰え、障害の悪化については。

客観的に考えれば、“普通の人”なら、障害があるから、障害さえなければ、などという考えに陥ってしまいそうなところだろう。個人的には、諦めることが増えてきた実感は確かにある。

にもかかわらず、これからの人生も楽しそうだな、と今は思えてしまうのだ。一つには、この新生土屋で自分がやるべきことがある、必要とされている実感を得ているからだ、という理由もあるだろう。他には、妻に洗脳されたことも(笑)。最初から思考回路が麻痺ぎみなことも否定できないが、これは経験と考え方の問題であって、私は決してメンタルが強いわけでも、あるいは強がりを言っているわけでもない。

自分の今を分析してみると、実は、そう遠くない将来、自分が動けなくなる運命にあったとしても、それを案外と気楽に思える理由が3つほどあるのだ。

> Part 2につづく

 

◆プロフィール
古本聡(こもとさとし)
1957年生まれ。

脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。

早稲田大学商学部卒。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。

2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。

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