地域で生きる/20年目の地域生活奮闘記⑤~テレビ放送で再び見た「こんな夜更けにバナナかよ」に 感じたこと / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

2018年12月に一般ロードショー公開された「こんな夜更けにバナナかよ」という映画について私の感じたことを書いていこうと思います。

まずこの映画が他の福祉映画と違うのは、マイナーな映画館で関係者しかほとんど見ないし、存在すらも知らないということではなく、大泉洋さんや高畑充希さん等有名なキャストを起用して、一般社会の人に重度障害者がこの世の中にいる事を知らしめたという点で、そこを高く評価したいと思います。

重度障害者の世界を知らないひともキャストに惹かれて見てもらえたということです。割とその年の映画全体の興行収入にも貢献しており、福祉映画は関係者しか見ないという一般論を打ち破った事が、より一層良かったと思います。話題を呼んだその作品が上映されたのが二年前の年末のことであり、つい最近になって地上波で改めて放送されたのです。

その放送を契機に目に触れる機会としてはより多数が、重度障害者が街で暮らすという選択肢を知ってくれたのではないかと思います。

大泉洋さんが演じる主人公は、筋ジストロフィーで進行性の重度障害者です。現在と福祉事情が異なり何の介護保障制度も無かった時代に、北海道大学のボランティアの人たちの協力を得て、自立生活を成し遂げました。

原作本が出版されたのは、私自身が親元から地域に出て数年が経過し、慣れてきたからこそ感じる戸惑いや困難に行き詰まっていた頃の事でした。私もその時は御多分に漏れずに公的制度は全く足りていませんでした。学生ボランティアさんをお願いしながら暮らしを成り立たせていたので、自分の生活ともオーバーラップしながら身近なこととして、この映画を見ていました。

介護ローテーション表が貼り出されている黒板などのシーンは、虫食いの埋まらない状態も含めて自分が痛いほど経験している事だったりもするので、重度の障害を持っていても、地域で生きることに果敢に挑戦すると決めたら同じ苦労をしているのだと思い、今後も継続的に頑張ろうと新たに決意しました。

それまでは「重度の障害者=入所施設で暮らすという選択肢か、医療依存度が高ければ一生入院」という二者択一の選択肢をなんの躊躇も無く定義づけられていたのです。

そんなイメージを一新するに至った人がこの主人公です。とても個性的な人で、捉え方によっては凄くわがままとか自己中心的と思われてしまい、暮らしを成り立たせている最中は人間関係の構築の困難さがありながらも、持ち前のヴァイタリティーと個性でカバーし明るく乗り切る様は好感度が高く、障がい者のマイナスイメージの払拭にも一役かっていたと思います。

それを表す象徴的なエピソードとして、彼が亡くなった後の葬儀・告別式には彼の支援に関わった支援者たちが遠方から沢山集まったり、学生時代に支援をしたことをきっかけに就職先が変わったり、生き方を変えたりした人が少なからずいました。日常茶飯事の介護者不足は今も昔も変わりませんが、この映画はボランティアに全てを頼るのではなく、介護保障を制度化しなければならないことを世の中の人にインパクトをもって伝えました。

医療的ケアという言葉すら知られていなかった時代に、自分で医療行為をボランティアの介護者に伝え、生活の一部として医療的ケアを暮らしに位置付けました。それにより医療的ケアを伴いながらも20年近く一人暮らしをした事実を分かりやすく映像化した作品だと思います。この映画の影響を受けて在宅生活を可能にできるようになる人の当事者の幅が広くなったことは明確な事実だと思います。

北海道はもともと重度障害者の運動を積極的に展開しながら自立生活を成り立たせていく活動が活発な地方でした。いくつかの重度障害者の自立にこだわった活動を活発に行う団体を背景に、実現した暮らしである事も事実です。この映画を再度観たことを契機に、地域での暮らしを守り発展させ、次世代に引き継ぐ障害者運動の必要性を痛感しています。

折りしも東京では、コロナ禍の状況の長期化・深刻化を社会背景に、社会保障制度の切り詰めが様々な所で起こり始めています。ただでさえ不十分な状況の中で、健常者も自殺者が出る程、万人が生活に困る時代であるというもっともらしい論点から、何を削ろうと考えているか分からない混沌とした国の施策に基づく情勢下で暮らさざるを得ない時代です。

「こんな夜更けにバナナかよ」が社会に投げかけた諸問題は未だ根本解決に至ってはいないという想いを新たに抱き、削るところは他にある事を声高に訴え続けていく障害者運動を今まさに初心にかえって展開していく必要性を強く感じました。

理論武装だけではなく、昔風の身体を張る系の運動の再生が非必と思わずにはいられません。やりたいことをやりたいように行える生活を獲得するためには、周囲の支援者の深い理解が必要不可欠です。若い障害当事者の皆さん、原点に立ち返り自分の権利と義務を果たした上での自由な生活を獲得する活動をともにアグレッシブに展開しませんか?世の中は逆行し始めています。

わがままと言われない、真の自立生活の再構築を図っていきましょう。

 

◆プロフィール
渡邉由美子(わたなべゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

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