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地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記72~交通機関の無人化に思うこと~ / 渡邉由美子

私が自立生活を意識し始めた1990年代後半にはバリアフリーは皆無でした。

私の母親は車の運転は本当はしたくありませんでしたが、私がまだ幼児の頃、家の目の前を走っている私鉄に私を乗せて外出しようとしたときに、「ベビーカーはたため、片手で子どもを抱いて片手でベビーカーを持って階段を上れ」と、その当時の助役と思わしき最寄り駅のお偉いさんに言われました。

幼児とはいえ脳性麻痺特有の筋緊張も強かった私の身体を片手で抱え上げながら、荷物やベビーカーも持って階段を上がり電車に乗ることは不可能でした。その経験から養護学校小学部に入学させることを契機に決死の覚悟で母は運転免許を取りました。

それ以来、私が自立生活をして自ら介護者の協力を得て自主的に行動ができるようになるまで、いやいやながら車の運転をして私の野外活動を全面的にサポートしてくれていました。

交通バリアフリーということが障がい者運動の大きなテーマとなり、運動が盛んに行われていた頃、私は電動車いすを使って電車に乗って活発な社会参加活動をするようになりました。そんな過去を経て、今は一見電車に乗ったり、その他の公共交通機関に乗ることが容易になったように感じている重度障がい者も多いと思います。

しかし、それはあくまでも30年前車いすの人が電車に乗ることが一切想定されていなかった時代から見れば、かろうじて乗せてもらえるようになったということに過ぎないのです。

交通機関に乗る時に障がいを感じる障がい者は車椅子の人だけではもちろんありません。視覚障がいの人もとても苦労しながら毎日の足として一般公共交通機関を使って日常生活を送っているのです。

最近になって、よりいっそうのバリアフリーを推し進めるために、大手各社は運賃の値上げを明言化してきています。その一方で駅を無人化するという、まるで30年以上前に逆戻りするかのような状況となってきており、この現実は早期に改善してもらう必要があります。

そのためには交通バリアフリーを再び障がい者運動として行わなければならない事態が近づいてきているように感じます。私のように電動車椅子は使っていても、まっすぐ走ったりバックしたり小回りをきかせて運転することが手の麻痺によって難しい人もいるので、視覚障がい者の人はもちろんのこと、一日も早くホームドアを全域に付けてほしいと望んでいる人は数多くいると思います。

いつになったら全域にホームドアが設置されるのかといった計画の提示もなかなか進んでいません。一見駅員さんの手助けを借りなくても乗ることのできる段差や隙間をきわめて小さくした駅や電車の導入が進み、良くなっているような錯覚も感じます。

しかし、設備面だけのバリアフリーで人の手を借りず交通機関に一人で乗れる人は電車を利用しているすべての障がい者から見たら数は少ないと思うのです。

そのような軽度な障がいの人が健常者と同じスピードに近い状態で電車に乗れるようになり、一般就労や健常者社会に溶け込むことができることももちろん大切なことです。しかし、重度障がい者と呼ばれてしまう人たちは、やはり駅員さんなどのサポートがあるからこそ電車に乗ることができているということもまた事実なのです。

そのようなことを総合的に考えていったときに、その値上げしたお金が本当に役に立つバリアフリーの実現に割り当てられるのであればよいのですが、他の消費税の増税の時にもよく言われた福祉目的税と言っておきながら、実際は本当にそのようなことに使われているのはごく一部で、7割方他のことに消えてしまったというのでは困るのです。

エスカレーターやエレベーターの修理新築をするに当たっても、工事箇所が完成するまでの数か月の間、もともと狭いホームが余計狭くなって歩きにくさが増え、線路に落っこちてしまうのではないかという恐怖を味わいながら乗車しなければならないのです。

バリアフリーの実現ができていなかった時代は車椅子の人が外出することは年に何回かの大イベントでした。しかし、今は毎日電車に乗って社会参加活動を実現するために動いている重度障がい者もいるのですから、交通機関に乗れるようになったという日常をいまさらまた不可能にするわけにはいかないのです。

AIの進歩とか最新のIT技術などを駆使すれば、人員削減をしても今と変わらないグレードで交通弱者と言われる人も電車に乗れると考えている人もいるのかもしれません。それは机上の空論であって大きな間違いだと私は思います。

相手は人間です。突然具合が悪くなったり怪我をしたり災害が起こったりなど、予測のつかない事態に状況を見て対応できるのはやはり人でしか難しいのです。どんなに優れたAIであっても、不慮の事態に即座に対応することは不可能です。

無人化や人員削減ではなく、人的資源は削らない方向の公共交通機関の在り方をもう一度考え直し、誰もが安心して快適に日常の移動手段として使うことのできる交通機関を再生していきたいと思います。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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