最近は、ネットバンキングや各銀行のアプリや電子マネーなど、さまざまな金銭のやりとりができる世の中になっていることはもちろん知識として知っています。重度の障がいを持っているのだから、いちいち振込に出向いたり銀行の窓口に出向いたりしなくても、金銭のやりとりがパソコン一つで容易にできることは、ある意味便利な世の中になったと言えるのだと思います。
その一方で、家計簿をつけなくなって久しい私にとっては、現金を財布から出して使った感の薄い金銭管理に不安も感じているのです。
携帯電話はただでさえ個人情報の宝庫となってしまっているのに、その上決して少ないとは言えない金額が携帯の中に入っているのと同等の状態となってしまうと、私は完全に自分で管理することはできていない部分も多いので、大きな違和感と不安を感じています。
介護者との信頼関係はある程度築きながら生活をしているので別に疑うわけではありませんし、どちらにしても目視で確認はしっかりしてはいますが、ボタン一つでどこへでも送金ができるという簡便さに人間の行う事の不確実性を感じてしまうのです。
パソコンでやれるとなれば自分自身で行うことも不可能ではなくなるのです。私の手が不随意運動によって動いてボタンに触れてしまって、はっと思ったときには多額の現金が送金されてしまうなどということが、絶対に起こらないという保障はないと考えてしまうのです。
もちろん何度も確認画面が出てきたりするので、一回くらい触っても送金されてしまうことはないと思うのですが・・・。
つい最近も某市で、一番信用がおけるはずの市町村が個人の口座に多額の現金を振り込んでしまい、それを使ってしまったことで逮捕にまで至ってしまうという事件もあったばかりなので絶対ということはないのだと思います。
そんな思いの中で私は相変わらず超アナログな金融機関とのやりとりをしています。要するに金融機関の窓口やATMに介護者とともに足を運んで私の目の前で介護者の人だけではなく金融機関の方も立会いのもと、複数の目で確認しながら金銭の取り扱いをしているのです。
最近は窓口を減らしたりしてATMだけになってしまっている場所が多くなり、私たち重度障がい者には遠くまで行かなくてはならないという大変さが増してきている気がします。
それでもさまざまな人に協力してもらえる状況が私には安心で、時間があれば振り込みや引き出し、時には定期預金などを作る目的で窓口を訪れます。手数料を取られるようになってしまった金融機関も多いのでロスかな?と疑問に思いながら金銭管理をしています。
私はまだ介護者に今日はこんな目的でこのお金を引き出すとか振り込むとか明確に伝えることが今のところできていますし、その指示に従って手を動かしてもらうといった状況なので良いのですが、言語障がいや知的障がいなどでやりたいことを伝える事そのものが障がいとなっている人も少なくない中で、生活に必要不可欠なお金というものの管理をどのように行っていくのかは自立生活を可能にする上で一つの大きなポイントになることだと思います。
社会福祉協議会の安心サポートや成年後見人制度をうまく利用した金銭管理の方法はあると思いますが、もっと日常的なレベルでの金銭管理はどのようにすることが重度障がい者にとってより良い生活につながるのかということは、正解はない中でそれぞれの障がい当事者が工夫を介護者とともにしなければならないのだと思います。
金銭を下ろすときにはATMの画面は車椅子からでは見えないところがほとんどですし、タッチパネルに手を触れることは身を乗り出すことができないものにとってはとても困難なことです。せめてタッチパネルに角度がつけられて目視ができればよいなあといつも感じています。
でも、座っている私に見えるということは周りにいる他人の通行人にも見えてしまうという事なので、それはまたそれで別の問題が出て来る気もしています。
窓口でお金を下ろせば振込用紙を書いたり自分の名前を署名・捺印しなくてはならないので、それも障がいの重い人にとってはとても困難なことです。
障がい者も当然お金を得て、それを日常生活に上手く使っていかなければ生きていけないので介護者の協力はもとより、金融機関の人たちも関わって、物理的に手が動かなくて署名や捺印が自分で行えない人も地域で普通の住宅を借りて生きているのだという事を理解して協力をもらいたいと思います。
今は新しい口座を作って通帳を作ろうとするとお金がかかる時代になりました。生活のお金が足りているのか足りていないのかを一番簡単に把握する手段は通帳という人もいるので、障がい故に通帳を必要とする人には従来通り通帳を無料で発行してもらえる配慮がほしいと思います。
お金とも金融機関とも介護者とも上手くお付き合いしながら生活を営む糧にしていきたいと思います。
◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生
養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。
◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動