地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記79~物価高の社会に思う事~ / 渡邉由美子

先日、障がい者運動の大先輩で今の重度訪問介護の制度をゼロから築き上げてきた大物障がい当事者が惜しまれながらこの世を去る出来事がありました。

その方は、私は直接共に活動をさせていただいたわけではありませんでしたが、礎を築いた方のお一人であることは紛れもない事実であり、介護という事を必然的な媒体として人と人が助け合う絆の重要性を実践された方で、まだまだこの世界で活躍していただきたかった方のお一人でした。

晩年は医療的ケアも濃厚に必要とされていた状況であったようですし、二次障がいとの痛烈な苦痛を伴う自己との闘いを最後まで諦めることなく貫き通された当事者運動の先駆者の方でした。

その方が残されたもの、課題を次世代と言われる私たち重度障がいの当事者は引き継いで発展させていくよう努力を重ねていくことに惜しみない労力を注ぎたいと心から思う、最近の出来事でした。

そのこととは直接関係があるわけではありませんが・・・。6月から生活必需品が軒並み物価上昇しています。それは一見、重度障がい者だけが直面する問題ではなく、みんなが同じように生活苦を抱える時代なのだから仕方がないと言われがちな要件です。

しかし、本当にそうなのでしょうか?重度障がいを持っていると経済を切り詰めたいあまり我慢をするとか、耐えるとか、ということをしてしまうと、障がいそのもののさらなる重度化や命に直結する事態になってしまうのです。

例えば、エアコンの設定温度を28度までにすることで節電することや、地球温暖化が防げるとして政府は28度設定を推奨していますが、私たち重度障がい者は汗を流れるほどかくことができず身体に熱がこもってしまう。
その熱が発散できないと高熱が出てしまい、熱中症を家の中でも起こしてしまい救急搬送されることになってしまうのです。

その他にも栄養をしっかり取れなければ、ベットに寝たきりであったり、車椅子に座りっぱなしでお尻が圧迫されていれば、どんなに優れていると言われるクッションをたとえ使うことができていたとしても褥瘡ができてしまい、褥瘡が悪化すれば入院は避けられないことになってしまいます。

そして、いま私は新しい車椅子を製作していますが、申請が通った時点より車椅子を作成するための部材そのものの値段が高騰しているので、その高騰分を誰が負担するのか?とか、部材そのものの供給がウクライナの戦争の影響を受け物流に問題が発生し、思うように作成が進まないといった直接的経済高騰の影響を受け始めています。

そんな様々な障がい故にかかってしまう経済事情は、排泄をどうしてもおむつでせざるを得ないとか、健康維持のためにかかせない通院に介護タクシーを使うという手段でしか動けない人々にとって厳しい現実の課題となっています。

自治体としては介護タクシーの乗車時にその運賃を補助する介護タクシー券を配っているとか、おむつもおむつ代助成券を配っているなど健常者にはない障がい者特有の事情に配慮した経済維持の施策を普段から講じていると言われるかもしれませんが、補助はあくまでも補助であって、必要度の高い人にとっては生命維持にかかせないものが物価上昇によって充分手に入れることが難しくなると、もともと体力が弱かったり、障がいそのものだけでなく基礎疾患としての合併症もかかえていると通院の回数を抑制したり、食生活も切り詰めたりすることによってもたらされる生活への直接的な影響は計り知れないものがあると思います。

健常者の賃金も物価上昇に合わせて人が人として生きていける適正価格のものを購入できるように上がってもらわなければならないと思いますし、それに伴って重度の障がいをもつ私たちの命に直結する暮らしは様々な角度から守られる世の中が継続されないと本当に歪んだ社会が加速化してしまうと思います。

人が生きる事を万人に保障するためには健常者・障がい者問わず個別の事情にあわせて必要な人に必要な対策を講じていただければ幸いに思います。

これで物価高が収まるわけではなく第一弾であり、秋にはもっと大規模な値上げがあるというニュースも耳にする中で、ウクライナの戦争の終息が一日も早く実現され、コロナの影響からも徐々に経済が立ち上がっていく中で誰もが安心して暮らし続けられる社会が戻ってきてほしいと切に願うばかりです。

障がい当事者が生活の最後の砦として受けていることの多い生活保護の制度もこれ以上切り詰められることなく、物価上昇に伴う経済負担が一番弱い人だけにしわ寄せされない保護費の適正な支給をしていく社会であって欲しいと思います。

それを当たり前にすることで働けなくても人間らしく生きられることを保障する制度の最たるものとしてセーフティーネットの役割をきちんと果たし続けて欲しいと思います。

仲間たちは最近、社会保障制度全般を受けることが役所の水際対策で難しくなったと言っている人が増えてきました。以前から暮らしている私のようなものには今まだ直接的なアプローチはありませんが、いつ財政逼迫を理由に介護保険と統合されるとか、収入が少なくても自己負担を求める制度へ改悪されてしまうか、わかりません。

国や自治体の動きを瞬時に把握しながら改悪の阻止をする障がい者運動を続けていこうと思っています。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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