地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記129~最近の緊急相談から思うこと~ / 渡邉由美子

最近、私が所属する障がい者団体のもとに、ある緊急相談が寄せられました。その案件は未だ解決には至っていませんが、相談支援にたずさわる中で感じたことを書いていこうと思います。

一昔前は、重度訪問介護の制度を使って介護者に自宅に来てもらうにあたり、市町村にその根拠となる介護時間数を認めてもらうことは非常にむずかしいものでした。私たち重度障がい者は文字通り、命を懸けて行政と闘い続け、必要な時間数を獲得してきました。

とはいえ地域格差はまだまだ大きく、同じような障がいの状態にあっても居住する地域によって必要な時間数を認めてもらえないケースも多いのが実情です。本来必要な介護時間が確保できず、耐えがたきを耐える日々を送っているといった話はよく耳にします。

今回、私たちのもとへ相談に来たのは行政から24時間介護の必要性を認められている当事者です。24時間の介護が必要な状態であるにも関わらず、これまで依頼していた訪問介護事業所が急遽撤退してしまい、路頭に迷っているというものでした。

介護業界の人材不足は以前から深刻な問題で、どう補っていくかが常に議論されているところですが、今回のケースは介護事業所の撤退が理由で、本人になんの落ち度もない当事者の安心・安全な暮らしが脅かされるというもので、その理不尽さに憤りを感じずにはいられません。

相談者曰く、その事業所には週に何泊も介護者を派遣してもらっており、その穴埋めができず、ほとほと困り果てているとのことです。病気でもないのに病院に入院したり、障がい者支援施設の短期入所サービスを利用したり…そうでもしないと命を繋いでいけないと悲痛な声をあげていました。

私たちはその相談内容を聞いて、明日は我が身と考えつつも、何かできることはないかと知恵を寄せ合いました。私も自身が利用している介護事業所に「今夜からでも誰か人を派遣してくれないか」と掛け合うなど思いつく限りのことをしましたが、力及ばず、相談者は行政の「緊急一時保護対象」として、空きのあった知的障がい者向けの支援施設に一時保護されることになってしまいました。

介護体制が整うまでの一時的な滞在とはいえ、地域での自立生活を送ってきた人が障がいのカテゴリーも全く異なる施設に入所するという現実を前に、障がい者運動を少なくとも25年、いや30年近くやってきた私は脱力感と虚しさに押しつぶされそうになったものです。

例年より一足早く訪れた台風の影響で大雨が降りしきる中、行政担当者が朝からご本人の自宅を訪ね、淡々と事務手続きを済ませた後に、介護タクシーで施設へと向かったと聞きました。

当事者本人の気持ちを察するに余りある状況で、居ても立っても居られない心境でこの週末を過ごしています。

どの事業所も人材不足で余裕がないのはわかります。ただ、いかなる理由があるにせよ、利用者の生命維持のためのサービスを引き受けた事業所がそれを放棄するようなことはあってはなりません。

少なくとも次の事業所が見つかるまでは責任を持って人材を派遣するという責務をきちんと負うべきだと思います。そうでなければ、自ら望んで地域生活をしている全ての障がい者が地域で生きてくことが不可能となってしまいます。

そうするうちに一昔前のようにまやかしの「施設安全神話」が復活して、「重度障がい者はやはり施設にいるのが安全・安心」という社会に戻ってしまうのではないかと危機感や恐怖心が募るばかりです。

私も自身の頭がしっかり働き、「NO!」と言える間は地域生活を続けていくつもりですが、何らかの事情で言葉を発せられなくなったり、明確な意思表示ができなくなったりしたときには、周囲から容易に障がい者支援施設への入所を勧められ、一生そこから出られずにその環境に順応して生き延びざるを得ないこととなってしまうこともあり得ます。そう考えると、背筋が凍る以上の恐ろしさを感じてなりません。

もう一つ、地方在住で介護保険適用年齢の65歳を迎える人から緊急相談が届いています。

その相談者によると、行政担当者が「介護保険が適用される年齢になったら介護保険を使うのが当然だ。それが出来ないのであれば福祉サービスを根本から見直さなければいけなくなる」といった趣旨の文章をわざわざ自宅まで届けに来たそうで、障がい者の「『いくつになっても障がい者として天寿を全うしたい』という訴えには全く耳を傾けてくれない。どうしたらいいか」と、こちらも切羽詰まった様子がひしひしと伝わってきました。

問題の根っこはどちらも一緒で、きちんとした救いの手が差し伸べられないということに尽きると思います。

私は地元の行政が運営する「地域参加型介護サポート事業」という制度を使っています。ある時、その担当部署に「私自身が何らかの事情で意思表示ができなくなったとして、介護者が判断をするには不安がある場合には、どうしたらいいか」という質問を投げかけてみました。

その答えは「事故が起こった時には保険を適用して対応しますが、その他の事について、行政はタッチできません。日頃介護を依頼している重度訪問介護の事業所などに、そのような時には相談に乗ってもらえるよう、関係性を築いておいたらいかがでしょうか」といった呆れるばかりのものでした。

いずれの事例も「地域で安定的に自立生活を送り続けたい」と望む重度障がい者の声に誠実に応えるものではありません。世界情勢が穏やかでなくなり、また物価の高騰で生きづらい社会になりつつある中で、誰も責任をとらない福祉サービスを利用しながら生きる重度障がい者は、いつ地域生活から排除されてしまうか分からない。何をどこから立て直していったらいいのかと考えさせられる日々です。

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

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