地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記86~身体介護のやり方は人それぞれ~ / 渡邉由美子

私の身体状況は車椅子から降りると、いわゆる寝たきりのカテゴリーに入ります。このことはこのブログの中で折に触れて何度も書いてきたことですが、最近寝たきりという状況について考えを深める出来事がたくさんあったので、改めてそれについて書いていこうと思います。

まず身体が動かず意識はあっても寝たきりという状況の人、意識もない状態で寝たきりの人(意識が本当はあるのかもしれないが、周囲に汲み取ってもらう手段がなく、そう思い込まれてしまっている人も含む)と、少し考えただけでも寝たきりという言葉で連想される状態像は多種多様にあります。

その中で‟私の寝たきりの“状態に対する理解を深めていくことは、本当に難しいと感じています。どんな時に感じるかというと新人介護者の日々の研修場面、リハビリを受けるにあたり施術関係の人に伝える場面、医師や看護師・検査技師ら、体調不良の原因を探る人たちと関わる場面等です。

様々な人に私の寝たきりという、どうにもならない状態をきちんと理解してもらった上で初めて、それぞれの人との適切な関わりが実現します。伝わりが悪いとスムーズに事が進まないだけでなく、怪我や関わる人にも大きな負担がかかり、ひいては地域生活の継続が困難となることにもつながりかねません。

私は長年、その生活の大部分において、この‟自分の状況を口ひとつで伝える“ことにエネルギーと神経を使いながらして暮らしています。コミュニケーションをとることにも大きな困難のある寝たきりの方からみれば、しゃべれるという武器があることはうらやましいと思われるかもしれません。

しかし一見会話ができると思われていても、そこには特有の難しさが存在します。コミュニケーションが‟真にとれる”のと、‟一見饒舌にとれる“のとでは全く違います。寝たきりの方たちの中で、その動きが言葉にほとばしるかのように上手な表現のできる人に出逢うことがあります。どうにかその伝えるという技術を盗もうと試みるのですが、なかなかそれを真似して盗むということができません。

この文章を書いていてもいつもそうなのですが、説明をして言わんとすることを書こうとすればするほど、語彙が多くなり、文章が長くなり、結局何が言いたかったのか、あとで読み返すと全体に霞がかかったようにぼやっとしたものになってしまうことがよくあります。

日常の寝たきりの身体をどうしてほしい、どうすればうまく動くかといったことを伝えるときにも、その悪い癖が出てきます。言葉数が多すぎると、受け取る人たちは結局どういう順番でどんなところを持って、力加減はどのぐらいを求められているのかわからなくなってしまいます。

こちらが何も言わずにやってもらえばその人なりの手順でうまく進むものを、私が口をはさむことで手順が抜けてしまったり、頭がパニックになったりとそのペースを崩してしまい、結果として求めたことをしてもらうこと自体が困難になってしまうことが多々あります。

そしてここに挙げた人たちの中で私だけに関われるのは介護者だけで、他の人たちは私に割ける時間も限られているのです。そのため、どうすればできるだけ簡潔にダイレクトに伝わるかが重要になります。

特に医療関係者は医師にしても看護師にしても検査技師にしても、その場が誤診につながらないように最善の注意をしながら私に関わっているなかで、やってほしい関わり方を伝えるのは容易ではありません。

いざそれが伝わったとしても、健常者と違って診察台に横になったり、診察が終わって車椅子に戻ったりといった動作そのものに時間がかかります。それは介護者がやりますが、その間、診療室をふさいでしまう以上、他の人を診るわけにも行きません。

となると空白の時間のごとく、その忙しい人たちの時をいただいてしまうことになるのです。そのあたりも含めて的確さが求められているのですが、ボキャブラリーのなさと動作を口で伝える困難さを前にして、経験はいくら積み重なっても、それがうまく出来ずにいるのです。

少し話は変わりますが、私は電動車椅子で車幅感覚や細かいジョイスティックの調整をするのが得意ではありません。どこかにぶつけたり脱輪したりをしながら日々ヒヤヒヤで乗っているのが現実です。

それに引きかえ、電動車椅子の運転がとても上手な当事者の方もいます。その人の言うとおりにジョイスティックを動かしたところ、とてもうまく幅寄せができる経験をしたことがあります。さきほどから口で伝える難しさを書いてきましたが、人に言われたとおりに動かすと幅寄せがうまくできるということは、口だけで伝えることは可能ということなのです。

これを体験して以来、私もこんな風に上手に伝える技術を身につけたら、イライラもせず、穏やかに地域生活が円滑に行えるのだろうとつくづく思います。その幅寄せを手伝ってくださった当事者の方に、なぜそんなに的確に短い言葉で伝えることができるのかと尋ねたところ、頭の中で地図を描くように動きが入っていれば指示がうまくできるという解説でした。一理あると感心したことを憶えています。

次回からは伝えたい人たちにどのように私の寝たきりの状態を伝える努力をしているのかについて書いていこうと思います。乞うご期待。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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