地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記111~24時間介護保障を巡って起こった裁判に思う事~ / 渡邉由美子

昨年末に24時間介護支給を巡ってネットが炎上するできごとが起こっていたことを私は最近知りました。このことを知ったツールも、くしくもインターネットのFacebookの投稿を読んで知る、というなんともやるせないネット社会の現実です。

世の中、経済状況が確実に厳しくなっていることはリアルに感じています。日本も政治は軍備を整えるという方向に確実にシフトしています。個人消費はある程度していかなければならないのはもちろんのことです。しかし、そんな世の中が加速していくと、本当にナチスの時代の障がい者の処遇が再来するのではないかと思ったり、大不況となれば真っ先に福祉という分野には人もお金も回されない世の中になりそうな予感がしてならないのです。

福祉制度は一度支給されたものは余程法律に触れるようなことさえしなければ、ガクンと下げられることはないと今までは言われてきました。そして、現状が立ち行かない人達にはきちんと自分らしく生きる事を人権として保障する支給制度を介護時間だけではなく、所得保障や日中活動の在り方も込みで総合的に考えてもらえたらいいと思います。

そんな中で税金を使って生きざるを得ない重度の障がい者が再び標的の的としてネットで昨年から取り沙汰されているのです。群馬県に住む重度障がいをもつ男性障がい者が24時間介護の保障を巡って訴訟を起こしたことから端を発し、この男性だけでなく24時間介護を受けなければ生きていけない人達への優生思想に基づくえげつないバッシングがネット上で昨年から炎上しているという状況です。

このニュースを最近知ったとき、同じ立場で生活をしている私は自分がネットバッシングを受けているかの如く胸を締め付けられる思いになりました。ネット上というのは現実の人が書いていても本名も顔も見えず、仮想空間のようなものなので何でも言えてしまったり、誰かがヘイトスピーチ的なことをえげつなく楽しむように書いたりすると、それを助長させることが容易にできてしまうということに問題があると私は常々思います。

津久井やまゆり園事件で大量殺人を犯した死刑囚の植松聖被告を英雄視したり、「重度障がい者は殺処分でよい」などとする、聞くだけでも恐ろしい言葉が飛び交っているのです。「生産性のない人間は生きる価値がない」「このような人たちに多額の税金を投じる必要がその投稿者には分からない」という内容で終始するネット炎上も現実なのです。

こういうことが明るみに出るたびに共生社会や共存社会を長年訴えて、その浸透を目指して日々活動している者としては力不足を感じざるを得ません。どうしたら重度の障がいを持っている人の「生きている価値」を正しく評価してもらえるようになるのかと本当に考えてしまいます。

ネットに書き込むような人は障がい者がどんな人なのか大枠としてもわかっていないのでしょうし、障がい者という特殊な人間が健常者とは別に存在するのではなく、たまたまハンディを持っているというだけでその他は何も変わらないということを知る由もない、浅い考えで投稿してしまう人達なのです。

いや、浅くも考えていないのかもしれません。投稿した後に、24時間介護を求めているご本人が投稿者に対して情報開示を請求した時には、その投稿者は何も深いことを考えずに「殺処分でよい」とか、「こういうゴミクズはマジで死んで欲しい。一体何が目的で生きているのか意味が不明」と言ってしまったという様でした。

どうしたらここまで何のいわれのない人を汚い言葉で掻き立てられるのか、私はその真意の方を心の底から問いたくなりますが、ネットという闇だからこそ言えてしまう事なので、それもかなわず、頭に来るやら腹立たしいやら持っていき場のない怒りを禁じ得ません。

でも、こんな投稿をしてしまう人に怒っている暇があったら正しく理解し、支援してくださる多くの人々と関係性を密にして連携を図り、本当の共生社会を完成させて、いつか上記のコメントを書いてしまった人が情けなく心から感じてもらえるようなことをしていくことに力を注いでいきたいと思います。

それにしても、もう一つの大きな問題はどうして生きるために1日24時間介護保障が必要ということが訴訟をしないと勝ち取れないのでしょうか。この人はまだ24時間介護を受けられるようになったわけでもないのだと記事の内容からは推測されます。たぶん訴訟に出るまでには住んでいる担当自治体と話し合いを重ねたり、家に実態調査に来たりという過程を何度となく繰り返しているはずです。それは自分の経験上よく分かっていることなのです。

ある程度の生活の困難さを行政が把握し、24時間介護が取れたらどういう生活を実現したいというビジョンも明確なはずなのに、なぜ行政が支給しないことで言われなくてもいい、本当に的外れなネット炎上によって心身ともに大変な思いをしながら障がい者運動として闘い抜かなければならないのでしょうか?

そこまでしなくても必要な介護時間が保障されるようになって欲しいと願うばかりです。そこには地域間格差の問題が色濃く横たわっています。自治体に財政がないから24時間介護が受けられないというのは本当に人権を保障する観点でありえないと思えてならないのです。仲間の力を結集して、どこに住んでいても必要な介護保障が受けられる社会を改めて築いていきたいと思う出来事でした。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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