地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記102~人と人とが連帯する力の大切さについて思うこと~ / 渡邉由美子

最近久しぶりに人とひととが集まって対面で会議を行いました。オンライン会議に慣れてきてはいるものの、対面のほうがお互いの距離が近く、より本音が聞けるように感じます。

先日、重度障がいをもつ当事者主体の集会に出席しました。これは2011年から継続的に行っているもので、国に政策実現を求めるための集会です。その政策の骨格ができあがってさえいれば、制度の狭間に置かれて福祉サービスを受けられずに苦しむ人がいなくなる。それだけ重要なものなのですが、それが実現されていないどころか、国は骨格提言そのものをお蔵入りにしようとしていたことがわかりました。

私達は長年、その提言を社会の真ん中に出し、正しく実現させるための障がい者運動を続けてきました。コロナ禍以前は日比谷野外音楽堂(東京都千代田区)に全国から障がい当事者が集うかたちで開催していた集会ですが、コロナの感染拡大をきっかけに集まることがむずかしくなり、この3年間はzoomで全国を繋ぎ、オンラインで実施しています。

今年はいくつか会場をおさえ、密にならない規模で、対面で行う形式を取りました。そこに参加した人たちの連帯感を強め、法律の改悪に歯止めをかけようという試みです。

今年8月、日本は国連の「障害者権利条約」にもとづく対日審査を受けました。これは日本の障がい者政策が適切であるかどうかを国際会議の場で審査するもので、それにより「日本は先進国でありながら、障がい者福祉分野においては諸外国から大きく遅れをとっている」という指摘を受けました。

それに対し日本政府は「グループホームをはじめとした日本の障がい者支援施設には桜があり、花見を楽しめる。日本ならではの風情を味わえる環境で、当事者たちはとても人間らしい生活を営むことができている」と公言しました。私たちはその発言に対し、論点がずれていることを訴えました。

この対日審査により、日本の障がい者支援施設では虐待事件が後を絶たないだけでなく、個人の命や尊厳を重んじ、それぞれが描く自己実現ができるような配慮がなされていないのではないかといったことが問われているのであって、花見ができるから彼らの生活水準は高いという筋違いの結論に持ち込むのはおかしいと抗議したのです。

日本は次の審査を受けるまでの期限を延長しました。また文部科学省もインクルーシブ教育を推進する立場を取らない方針を明確に打ち出しました。さらには厚生労働大臣が「国連の発言には拘束力がない」と言い放つなど、国連の指摘から逃げ切る姿勢が浮き彫りとなりました。

精神科病院でも患者の身体拘束を合法的に容認するような動きがあったり、病院の敷地内に生活の場という名目の建物を設置しただけで、「長期入院患者の地域への移行が進展した」とうわべだけの報告をしたりといったことが行われています。

障がい者支援施設の構造的な問題が表面化し、そこでは虐待事件が後を絶たないという状況は加速度的に悪化している一方で、国の隠ぺい体質は巧妙化しています。

一人の介護者が大勢の利用者の介護を担当し、目の前の生活を支えることで精いっぱいであること、そういった状況に置かれることで介護者の心身がもたずに離職者が増え、慢性的に人手が足りない状況が改善されないこと、利用者の生活の質まで考えたケアを行うこと自体が非常に困難であることなど、根本から見直しがされなければ、問題の本質的な解決には到底いたりません。

表面的に取り繕って「地域移行が実現された」といったり、「誰もが自分らしく生きられる社会になっている」といった幻想を語ったりするのでは、解決はおろか改善も図れません。

国はその実態が現実社会を生きる重度障がい者一人ひとりのニーズと合致しているのかという観点に今一度立ち戻り、それがどの程度達成されているのか、現状に課題はないかといったことを深く考え、その結果にもとづいたバックアップを行うべきではないでしょうか。そういった政策がそろそろ日本社会に築き上げられてもいいのではないかと思えてなりません。

重度の障がいをもつ人たちの生活ニーズは、年月を重ねることで当然ながら変化していきます。だから100%のニーズや想いが満たされ、理想的な地域生活が確立できるというのはむずかしいのかもしれません。

でもたとえ80%であっても満足度を得られ、継続していけるのならそれだけでもいい。本当に支援の手が必要な人が福祉サービスを受けられないという状況を作り出さないようにしなくてはならない。どんな人も線引きせず、誰一人として取りこぼさない社会にしていけるよう、当事者の私達が考え、訴え続けていくことが大切だと改めて感じさせられた政策提言集会でした。

その集会の後、会場近くの飲食店でお疲れ様会を開催しました。出席者は6人と少なかったものの、お店の店主は嫌な顔一つせず、「よく来たね。たくさん食べていってね」と満面の笑みで私たちを迎え入れ、おいしい料理とお酒を提供してくれました。

コロナの感染リスクを回避するために、複数が集まって飲食を楽しむということがためらわれる昨今ですが、人とひととが集うコミュニケーションの場の大切さを改めて感じるひと時でした。

そこに集まった人たちは全員が食事介護を必要とする重度障がい者でした。皆がそれぞれの介護者に重たいジョッキを程よく傾けてもらい、こぼさず飲む姿をみながら「これぞ地域生活においての自己実現のかたち」のひとつだと思わずにはいられないお疲れ様会の場となりました。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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