地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記122~重度な障がいを持つ人たちにとっての”食べる”ことについて~ / 渡邉由美子

重度の障がいをもつ私は日常生活において様々な不自由を抱えており、日々大半のことに介助を受けながら暮らしています。とはいっても「食べ物を咀嚼し、飲み込む」ということに不自由を感じたことはなく、固いものでもお餅のように粘り気があるものでも、喉の通りが悪いものでも気にせず食べることができます。

それはとても幸せなことだと思います。もちろん食べやすい大きさにカットしてもらうとか、食べるときには水分を一緒に摂取するといったことは心がけています。でも気にかけるのはその程度のことで、いわゆる介護食を食べた経験はありません。

以前、社会参加活動の一環で高齢者向けのデイサービスにお手伝いに行っていたことがあります。そこではほとんどの人が誤嚥防止のための”とろみ剤“でとろみをつけたお茶や水を飲んでいました。

とろみのついた飲み物を飲んだことがなかったため、一度試食させてもらったのですが、正直、積極的に飲みたいと思えるような口触りや飲み心地ではありませんでした。

またそこでは食事もそれぞれの嚥下や咀嚼機能の状態に合わせて刻んであったり、やわらかくしてあったり、ペースト状になっていたりと食形態も細かく分けられていました。誤って他の人のものを配膳してしまうことのないように、現場ではダブルチェック・トリプルチェックを行うなど最善の注意を払って利用者さんたちに提供していたことを思い出します。

こういったことは高齢者に限らず、嚥下や咀嚼機能が低下した障がい者に対しても行われています。

「食は生きる源」とよく言われますが、安全に楽しく食べられてこそ生きる源となるのだと私は心から思います。なぜそんなことをブログに書こうと思ったかというと、重度訪問介護の制度を使って自立生活している仲間のなかには、口から食べることに苦痛を伴ったり、大きな努力が必要だったりする人が非常に多いからです。

また口から食べることそのものがむずかしく、胃ろうや経管栄養などの医療的ケアによって栄養を体内に取り入れ、生命維持をしている人もたくさんいます。そういった事実を世の中のどれほどの人達が知っているのだろうかと思うとなんとも言えない気持ちになります。

重度訪問介護の制度は、もともと重度の脳性麻痺者たちの運動によって作られたものですが、在宅への移行を推進する国の方針で病院に長期間入院することができなくなった今では、医療的ケアが必要な人たちの受け皿の役割も担っており、重度訪問介護の制度を使って、胃ろうや経管栄養で栄養を摂りながら自宅で生活している人も数多くいます。

私自身の話に戻ると、なんでも食べられるとはいえ、ここ最近はいわゆる”ながら食べ”をすると食べ物が喉に引っかかり、真っ赤になって咳をしながらなんとか飲み込むといったように苦しい思いをすることが増えてきました。これが嚥下障害の始まりなのではないかと思うこともあります。

ただ私の場合は姿勢をきちんと正して食べる、ひと口の分量を少なくする、食事と共に水分を摂取するなどの対策をすることで、誤嚥を防ぐことができています。水分摂取はトイレの回数が多くなり、時間を浪費してしまうことを懸念し、つい控えてしまうのですが…。

食事は楽しく食べられることが基本です。楽しく美味しく苦痛なく食べられるのであればそれに勝るものはありません。最近知人から何年も固形物を食べず、極端な例では水も飲まずに生活する「不食という生き方」を提唱している人がいて、程度の差はあれ、それを実践している健常者が少なからずいるということを知りました。

その話を聞いて「本当にそんな生き方があるのか?その行為を続けていて大丈夫なのか?」など様々な疑問や戸惑いが私の頭にわきあがりました。食は生きるための基本的な営みのひとつですから、にわかに信じがたいことです。

興味があって調べてみたところ、最終的には仏教的な考え方に行きつくものもあれば、スピリチュアルという言葉につながるものもありました。また太陽光の中に人間が生きていくために必要なものは全て含まれているため、植物と同じように太陽の光を浴びて光合成をすることが大切であると説いている人もいるようです。

ここで紹介した”不食”はもちろんですが、食べ過ぎもまた健康に悪影響をおよぼします。テレビCMでよくある「これを食べれば健康間違いなし」といった購買力を高めるための売り文句に誘われて、健康食品に依存してしまうのもよくないですし、ふだん何気なく口にしている食品のなかに身体に有害な添加物がたくさん含まれているものもあるということにも気をつけなければいけないと思います。

そう考えると、楽しく食べることそのものも簡単ではないのかもしれません。それでもやはり楽しく美味しく食べられることは幸せなことです。

今は問題なく食事ができる私たちも、病気や老いなどをきっかけに、口から食べることがむずかしくなることは十分にあり得ます。食品メーカーや技術者たちには、知恵と技術を結集して少量でも生きるための栄養が摂れ、口当たりも味もよい食品を開発していってもらいたいと思います。

それと同時に、日々重度訪問介護制度で活躍する人材の育成を行っている私自身も、食べることに苦痛を伴ったり、安全に食べるための注意が必要だったり、口から食べること自体がむずかしかったり、そういった人たちに苦痛や不安のない食事介助が提供できる高いスキルをもった介護者育成に力を注いでいきたいと改めて考えています。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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