地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記126~施設入所にならないためには~ / 渡邉由美子

重度訪問介護の制度は、もともと身体障がい者の運動によって作られましたが、現行の制度では重度訪問介護を使って地域で生活できるのは身体障がい者だけではありません。また、身体障がい以外の人たちの地域生活の支援を積極的に行う事業所も増えており、重度の障がいをもちながら地域で生活できる人の数もどんどん増えています。

それはとても良い事だと私は思います。同じ重度の障がいをもちながら地域で暮らす選択肢がある人とない人がいるのは不公平極まりないことだからです。ぜひ今後も知的障がいや精神障がいをもつ人たちが当たり前に地域で暮らすことができるよう、支援体制も含めて整備が進んでほしいと願います。

ただ実際に制度を利用して地域で生活できるのは自分で自分の意志をはっきり表明できる人にまだまだ偏っているのが現実です。最近、知的障がいをもつ人の自立支援に関わったことで、それを改めて痛感しました。

どんなに重い障がいがあっても意思決定支援が適用されるということは、「津久井やまゆり園事件」をきっかけに確約されたはずでした。それがだんだんと風化してしまっているとつくづく感じます。

今回私たちが自立支援に関わった当事者は、好きなアニメのキャラクターの話を、それこそ誰かが止めなければ延々と楽しそうに教えてくれるような人で、この人の存在がどれだけ周囲に癒しを与えているかがよくわかります。

そんなアイドル的なキャラクターの彼の周りには彼の生活を支えたいと思う人がたくさんいて、そういった人たちの支援を少しずつ寄せ集めれば、彼の地域生活は自然と成り立っていくと容易に想像できます。

そのような背景があっても、担当する相談員と”キーパーソン”といわれながら当事者を深く理解しているとは思えない人によって、彼の施設への入所手続きが進められてしまっています。

明確な意志表明ができる当事者であれば、今の時代、本人が「施設入所はしない」と一言いうだけで、強制的に施設に入所させられることはありません。それが周りの人の判断によって「本人が明確な意志表明ができる状態にない」と決めつけられてしまうと、なかなか私たち支援者がそれ以上踏み込むことはむずかしいのです。

知的障がいをもつ人の支援を行う場合には、長年携わる中で当事者を深く理解していて、かつその人の自立生活が軌道に乗るまで支援や橋渡し役をすることのできる介護者が複数人でチームを組んで自立生活の基盤を立ち上げ、支えていく必要があります。

また、支援者が知的障がい当事者の家族の不安を解消するなど信頼関係を築きながら、「うちの子には自立生活は絶対無理」と思い込んでしまう家族の固定観念を切り崩す突破口を作っていくこともとても大切なことだと思います。

かつて私が自立生活を始めるにあたって、心配が勝る家族が最終的にそれを認めてくれた時も「この支援者になら愛する我が子の将来を託してもいい」と思えるほど信頼できる支援者がいたからに他なりません。

もちろんその支援者にも自分の生活があり、その時々で状況は変化していきます。だからこそ、よほど本腰を入れて自身の自立支援に携わってくれる人に出会えるかどうかが鍵になります。

もちろん、その支援者が一生涯、一人の重度障がい者の人生を背負っていけるわけではないのですが、それでも自立生活をスタートし軌道に乗せるためには、当事者を取り巻く周囲の人たちがタッグを組んで様々な環境を整えていくために、強力な支援者の存在は重要なのです。

身体障がい者であれば、周囲の人たちを取りまとめることや環境を整えることも含め、自身で行える人もいます。でも知的障がいをもつ人たちの多くは、それが困難なケースが大半です。なんとかそういった状況を打開して、入所施設に行くのではなく、地域で自立生活を送ることのできる知的障がい者を1人でも多く増やしていきたいと思っています。

冒頭で挙げた知的障がい当事者は「まずは支援者の体制を整える」という目的で、このゴールデンウイーク明けから3か月ほどの予定で、自宅近くの入所施設に暮らしています。施設でどう過ごしているのか近況は伝わってきてはいませんが、もともと集団生活が苦手なタイプのため、支援体制や環境整備を再構築することに全力を注ぎ、地域に戻ってこられるよう支援を継続していきたいと考えています。

知的障がいをもつ人たちの屈託なく、全身から染み出るようなジェスチャー込みの表現は、殺伐とした事件ばかりが報道される世の中をもがきながら生きる全ての人を癒す力をもっていると思います。

スピード社会でも競争社会でもない、誰もが自分らしく当たり前に地域で暮らすことのできる社会を、彼らを起点に実現していくことで、争いごとのない平和で健全な世の中を構築していくことができるのだと考えてやみません。

どんなに重い障がいをもっていても、障がいの種別に関係なく、自分らしい地域生活を送ることができるような支援の在り方を今一度模索していきたいと考えています。それには支援者の育成をどうしていくのかが大きな課題です。

「入所施設は安全、地域は危険がいっぱい」という既成概念を根本から変えていけるよう、これからも力を尽くしていきたいと思います。

 

◆プロフィール

渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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