地域で生きる/23年目の地域生活奮闘記137~京都アニメーションの事件の裁判に思うこと~ / 渡邉由美子

令和元年7月に起こった京都アニメーション放火殺人事件について、事件から4年の歳月を経たこの9月にようやく初公判が始まりました。事件の加害者もまた全身の9割に重度の火傷を負い、その回復を待っていたために、初公判までにこれだけの長い時間がかかってしまったのです。

 

この犯人の命を救った主治医は、初公判前に報道機関の取材に対し、犯人に罪を償わせるためにと必死で救命行為を行ったものの、とても複雑な気持ちだったと切々と語っていました。その一方で、重大な罪を犯した当人の証言は「このような重大なことになるとは思わなかった」というものでした。

 

火を放ったら、その建物内にいるたくさんの人たちを死傷させてしまうということは容易に想像がつくことです。それをまるで他人が犯したことを淡々と評論しているかのようなこの発言を聞いて、私は深く考え込んでしまいました。

 

このように自身が犯した罪を他人事のように話す犯罪加害者は少なくありません。その上、この犯人は罪を償うというつもりは全くなく、被害者や遺族に対して謝罪の言葉を述べることは未だに一切ありません。

 

どんな経緯があったにせよ、勝手な思い込みによる逆恨みが原因で犯してしまった罪を、減軽するなどということは決してできません。また犯人が何を述べようとも、殺されてしまった大切な家族や友人が帰って来ることは二度とありません。その被害者や遺族の立場に思いを馳せたとき、何とも言えない気持ちになります。

 

この犯人も重症の火傷の後遺症で全身に重い障がいを負って生きているのですが、何らかの形でこの人を介護する人たちの心情を考えると、やりきれない思いでいっぱいになります。

 

他の重度障がい者とは違い、この犯人は放火事件さえ起こさなければ、重度の障がいを負うことはなかったわけですから、その罪の重さを考えたとき、犯人の介護を担っていくことはとても困難を極めると思えてなりません。

 

自分の作品を盗作されたと勝手に思い込み、逆恨みで犯行に及んだこの犯人によって全ての人生の幕を閉じなければならなかった被害者と遺族の無念さは、想像を絶するものがあると思います。ただ犯人をこのような事件を起こすまでに、社会と正しくつながるための支援がなされなかったことについては、非常に残念なことであったと思います。この裁判の判決がどのように言い渡されるのか、しっかりと見届けていきたいと考えるばかりです。

 

話は少し変わりますが、世の中にそんなにうまい話が転がっているはずはないと分かっていても、なんらかの事情で追いつめられているときに、人は言葉巧みな手口で犯罪に巻き込まれてしまうものだと、障がい者運動をする中で、たびたび思わされます。

 

生きづらさを抱える人全てに十分な支援が行き届いているとは言えない世の中で、一度深い挫折を味わってしまうと、なかなか本人の力だけでは、真っ当な人と人とのつながりを作ったり、生活費を得ていくための手段を見い出したりすることができなくなってしまうものです。

 

こういった人たちは自身が犯罪に加担していることを自覚することができず、気づいた時には罪を犯してしまっているというケースが非常に多いのです。

 

例えば、詳細をきちんと理解せずに契約を結ばされた結果、それが犯罪の手先になってしまっていたり、本人は仕事に就けると喜んでした行為が犯罪そのものだったり…。その大半は本人が意図して罪を犯そうと思っているわけではもちろんなく、誰かがそばで関わってさえいれば、防げた犯罪なのです。

 

このブログの中でも再三書いていますが、孤立を防ぎ、正しい人とのつながりを持ち続けることは、何より重要なことだと強く思います。特に重度訪問介護制度のサービスのように、長時間かつ継続的にその障がい者の日常に入り込んで、生活を共にするという支援の在り方は、犯罪をも防ぐことが出来ると考えます。

 

制度の設立当初は身体障がい者だけが対象でしたが、知的障がいや精神障がいをもつ人たちも重度訪問介護の制度を使って支援を受けられるようになったことは、実に良かったと思います。

 

それぞれの障がい支援に深く関わり、豊富な知識や経験をもつ介護者たちが積み重ねてきたノウハウが新人介護者や未来を永続的に支えていく人たちにも伝承され、障がいをもつ人たちが健全に生きていく糧とできるよう、あらためてこの制度の成熟や永続性の担保のために活動を続けていきたいと思っています。

 

相模原障がい者殺傷事件の犯人も然り、京都アニメーションの放火犯も然りですが、道を大きく踏み外す前に、もっといい人間関係を身近で築くことができていたら、このような凄惨な事件は起こらなかったと思ってやみません。

 

もちろん犯人たちの罪を擁護する余地は全くないのですが、こういった犯罪を未然に防ぐことのできる社会システムづくりを、障がい者運動を通してし続けていきたいと考えます。その大きな活動のひとつである厚労省交渉を粘り強く続け、誰もが地域で自分らしく暮らしていける社会を実現できるように努力していきたいと思っています。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を精力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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