最近のデイサービスの取り組みについての研修レポート

高齢者地域生活推進委員会

10月26日に高齢者ケアに関わるマネージャーを対象に社内研修を開催し、広島県福山市で地域密着型デイサービス「鞆の浦・さくらホーム」など7か所の事業所を運営する当社顧問の羽田冨美江さんに登壇していただきました。各地のさまざまなデイサービスを視察した経験を踏まえ、近頃業界や利用者さんの間に起きている「価値観の変化」についてお話しています。事例紹介だけでなく、羽田さんが参加者に質問を投げかける形で、相互にやり取りしながら考察を深めていきました。

羽田

みなさん、自分の親にはどんなデイサービスに通ってほしいですか?

職員A

親の尊厳を守ってくれるところが良いです。

羽田

尊厳を守るって、どういうことなんやろ。

職員A

たとえばですが、親を子どものように扱ってほしくないですね。

羽田

そうですよね。昔のデイサービスって、そういうところがありましたよね。

羽田

じゃあ、自分ならどんなデイに行きたいですか?

職員B

体の衰えをゆるやかにできるプログラムがある場所だとうれしいです。

羽田

リハビリや筋力強化をしっかりできるところですね。ありがとうございます。

私が運営しているさくらホームは、地域密着型デイです。定員18名で、リハビリや歩行練習などの機能訓練加算、中重度加算や認知症加算を取っており、要介護4、5の人も1日数名います。利用日以外の日に利用者さんが自宅で転倒してしまったなどの緊急対応もしていて、月に3~4回あります。その場合は実費でいただいております。

利用者の90%が鞆の浦の住民なので、利用者さんは「あの人がいるから行こう」となりますし、テーブルでの雑談が盛り上がるデイサービスです。

職員は6人態勢。1人あたり3人の利用者さんに対応します。送別の担当者は別途にいますが、本当にバタバタしています。特に入浴介助に手がかかります。

利用者さんは朝やお昼前に来て、昼食を取って帰る人もいれば、夕食を取り、寝る準備までしていく場合もあります。めったにありませんが、緊急時の宿泊もしていただいています。

駄菓子屋があるのでそこの店番をしたり、ゲストハウスのシーツをはがしにいったりする人もいます。本当に一般的なデイサービスです。

さくらホームは開設して20年間、「鞆での暮らしを支える」を主軸に運営しています。開設した頃から際立った変革はしていません。しいて言えば、夕食や緊急時の対応をするようになったぐらいです。ご本人やご家族から大きな苦情もなく、スタッフはどうすれば利用者さんに喜んで頂けるかと、日々努力を重ねています。

それで満足していた部分はあるのですが、他の法人を見学したところ、デイサービスの内容が大きく変わっていました。利用者さんの価値観に変化が起きているからです。真似をする必要はありませんが、他の取り組みを知り、自分の施設を振り返る材料になれば幸いです。

羽田

ではここでまた質問です。介護保険が始まったころからの10年間と現在で、利用者さんの価値観が変化したと思ったことはありますか?

職員C

デイに関わって20年近くですが、昔は「皆さんと一緒に過ごす場」「外出の場」の要素が強かったです。今は色々な法人が自由参入できるようになり、利用者や家族がデイを選べる立場になってきています。デイごとの「色」を出すことが強く求められていると思います。

羽田

本当にその通りですね。以前は一緒にレクリエーションして、お風呂に入ってご飯を食べて…そこに居たくなくても、帰りの時間が来るまで待つ、という感じがありました。他に何か気づいたことはありませんか。

職員C

今はカフェのようなデイや、機能訓練に特化したデイがあります。利用者さんが求めているものが多くなってきているのかなと思います。

羽田

そうですよね。デイサービスはどこも同じ感じではなくなって、利用者さんのニーズに合わせるようになってきましたね。私は介護の世界に入って20年ぐらいですが、昔の利用者さんはよく「ありがとう、世話になるなあ」と言っていました。今の方は、自己主張が比較的強いですね。昔は軍歌や演歌を歌っていたけど、今の利用者さんは「ジャズをかけてくれ」と要望したりします。

では、新たなデイの取り組みを紹介していきます。

①   法人A

若年性認知症の人が利用できる、有名なデイです。経営者の方が市の担当者と何年も話し合い、若年性認知症の人が社会とのつながりや地域での役割を持てるよう、一般企業と連携しました。デイの時間中に働いて、お給料をもらっても良いようにしたのです。利用者さん同士だけでなく、地域や社会とつなぐハブ機能を持っています。

洗車や包丁とぎをして少しお金をもらったり、利用者さん同士でカラオケや散歩をしたり、自分たちのつらさについて話したりします。スタッフが何かするというより、利用者さんが自分たちで話し合うデイです。若年性認知症ではない、80代ぐらいの人もいらっしゃいます。今、こういったデイを全国に100か所つくろうと頑張っている法人です。

②   法人B

晴れの日は畑を耕し、雨の日は本を読んで過ごすデイです。園芸中心で、園芸療法士が大活躍しています。職員が何か準備するというより、(道具が)バーッと置いてあって、すぐ自分たちで作業に取り掛かれるようにしてあります。利用者さん一人一人が大きなプランタを持っていて、好きなものを植えています。何もしたくなかったら、外で風の音を聞きながら過ごすことができます。私が行ったときも、車いすの方が花をじっと見ていました。他にも大工仕事や創作活動があります。

このデイは、生きがいに焦点を当てています。風の音や虫の声、季節の野菜料理など、自然の豊かさを全身で感じられます。広い敷地で、五感が刺激されます。午前中はお風呂に入ったり、体を動かしたりして、お昼から外に出ます。お世話をしてもらうというより、利用者と職員が一緒に何かをつくる場です。

③   法人C

ワクワクドキドキを提供し、本人のやりたいことを大切にしているデイです。喫茶場での談話、野菜作り、調理、屋台での野菜販売などをしています。着物のリメイクをしている人もいましたし、それを見ているだけの人もいました。

ここはとにかく広い!調理場、福祉用具の販売スペース、喫茶場、読書スペース。広い建物の中に色々な場所がありました。

④   法人D

体をしっかり鍛えるデイです。フラダンスやボールを使った体操、器械体操などを1時間やります。そのあとは商店街へ繰り出して、自由に動き回ります。喫茶店や就労支援のチョコレート店で買い物し、雑談します。商店街には福祉用具店もあり、そこは「くらしの保健室」のような相談機能も担っていました。

これらのデイサービスを見学して、衝撃を受けました。

まず、今までは「お世話する場所」だったのが、「ともに楽しむ場所」に変わっているんだなと思いました。従来は自己肯定感をつける場所でしたが、これからは自己有用感、すなわち「自分は役に立っている」「誰かから必要とされている」といった感覚をつける場所になると思います。今後、介護を受ける団塊世代の人たちが増えていきます。社会がどんどん発展しているときに働き、お金を稼ぎ、成長してきた人たちです。介護が必要になったとしても、彼らが「自分は求められている」と思えることが大切だろうと思います。

また、今まで利用者さんは「敷地内から出てはいけない」と言われるような、いわゆる「閉ざされたケア」でした。今は社会参加がうたわれています。「地域に開かれたケア」にしていかなければなりません。

さらに、これからは空間づくりが重要だと感じました。最近友人がデイを開設したんですが、喫茶店のようでした。庭で散歩もできますし、近所の人もお茶をしにくるような場所です。従来の、いわゆる介護保険の事業所には見えません。 また、利用者さんに多様な選択肢があること、そして役割があることが必要だと思います。

羽田

では、最後の質問です。みなさまの運営しているデイが大切にしていることは何ですか?

職員D

このデイだったら自分も行きたいと思えるような場にしたいです。一人一人に寄り添うことを心掛け、いわゆる「施設感」がない場所を目指しています。

羽田

うちは利用者3人に職員1人がついていますが、ドタバタなんですよ。もっとこんなことをしたいなあという理想はあります。丁寧なケアをしたいけど、トイレとお風呂で大変です。そういったことはないですか?

職員D

うちのデイは4月からスタートしばかりで、まだ利用者さんが少人数なので寄り添えていますが、今後そこは問題になってくると思います。職員一人一人のスキルが求められてきますね。

羽田

うちのデイは地域密着型で、ボランティアの方にも来てもらっています。歌などのレクリエーションに参加してもらっていますが、個人情報を外に漏らされたら嫌だなと思い、お手伝いはお断りしていたんです。でも他のデイを見に行ったら、ボランティアの方がお花のお世話をしたり、野菜を一緒に売りに行ったりと、色々なことをやっていました。もっとボランティアさんに参加していただかないと、丁寧なケアは難しいかもしれないと考えています。

以上でセミナーは終了となりました。

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