土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉙ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

29 土屋の12のバリュー⑤

未来の希望に注目し、過去の経験から学ぶ

5番目のバリューにはこう書かれている。私たちは未来に対して楽観的ともいえる希望を抱いている。私たちの知識と情熱を結集し、よりよい社会、よりよい人間関係、一人ひとりのよりよい人生を創造していくよう努力すれば、希望ある未来は必ず拓かれると確信している。この希望ある未来に向けた歩みのなかで、さまざまな労苦や困難は必然的にやってくると思うが、私たちが未来の希望に注目し続けることができるならば、それらは必ず乗り越えることができると思っている。

この未来への歩みをより確かなものとするために、私たちは私たちの経験、特に失敗や挫折の経験を決して無駄にはしない。最大の師匠は、素晴らしい尊敬できるロールモデルであると同時に、自分自身の過ちや失敗の経験だ、心からそう思う。

しかし、失敗経験を何事もなかったかのように素通りしてしまったり、またその挫折感に打ちひしがれて経験から学ぶという前向きな姿勢を保つことができなければ、私たちはその失敗を永遠に反復し続けるであろう。大切なのは、経験そのものではなく、経験からどれだけ未来の希望に向けて進む上での情報を吸収できるかにある。

だから、「反省」とは、人間に付与された最も偉大な能力のように思える。「反省」こそが、私たちを次なる社会の創造に導く。

しかし、私たちにとって、「反省」することは実に難しくも思える。傷ついた自我には、自己弁護と自己正当化が奥深くプログラミングされている。他者からのお説教は、時としてこの自己弁護と自己正当化に拍車をかける。

子供の頃、親から叱責されるとつい、「でも・・・」と反論し、素直さが欠如しているとさらに叱責を強めた。このパターンは外の社会、学校や職場でも繰り返され続けた。途中から「反論」すると社会ではさらに憂き目にあうことを学習し、沈黙することを学んだ。しかし、素直に従っていると思いきや、口に出して反論しているときの数倍のボリュームと頻度をもって、心の中で「でも」が鳴り響いていた。

自己正当化と自己弁護は必要ではあった。そうでないと自分が壊れてしまったかもしれない。だから一生懸命「でも」と心のなかで叫び続け、自分が保たれると同時に、自分自身の成長と発展が阻害されていた。未来に希望を見出すことができなかった。

そんな自分が初めて、素直に「反省」し、その行為の価値を発見できたのは、依存症からの回復のための自助グループと治療共同体の中だった。そこでは仲間たちはみんな素直に「反省」していた。「反省」せざるを得なかった。みんな人生のどん底を生きていた。

自己弁護と自己正当化をする余地がもはや見つからなかった。周りの人たちは肯定することも否定することもなく、つまり価値判断をすることなく、ただ聞いていた。心理的安全性がとても保証された場所であり時間だった。素直に反省しているうちに、また仲間たちが反省しているのを聞いているうちに、勝手に向こうから希望の光がやってきた。よりましな人生を歩み始めることができるかもしれない、そう思った。

この視点は、実人生のみならず、社会活動にもビジネスにも援用することができた。「反省」する習慣は、リーダーシップやマネジメントにも、とても役立った。株式会社土屋は現在スタッフ1000名を超える組織になった。現在、私は非力ながらこの組織の代表をさせていただいている。事業の運営はとても順調だ。とても優秀で志の高い仲間たちと一緒に仕事ができてとても誇らしく思うし、現在の運営の順調さは彼女たち/彼らの貢献のおかげであることは間違いない。

しかし、もし私が少しでもこの会社の運営に貢献できているとしたら、それは30台半ばに生活保護を受けながら治療共同体で身に着けた「反省」の習慣は不可欠だったと思う。逆に、あの時間がなかったら、私自身がそれ以前のように、今以上に傲慢な、弱さゆえに自己弁護と自己正当化しかできない人間のままだったら、そのまんまこの組織の代表を務めることになったら、この組織に貢献どころか破壊的ダメージを与える可能性は、かなり高かった、心からそう思う。未来への希望に注目することもできず、過去の経験から学ぶこともできず、苛立ちのなかで仲間たちの健全な活動を邪魔し続けたに違いない。

だから、私自身が人生で最も大切なことを勉強したのは、大学受験期でも資格取得のための学びの期間でもなく、人生のどん底を生きた数年間だった。あらためてそう思う。

これからも失敗し続けるだろう。人間だから仕方がない。だとしたら、この失敗からできるだけ多くのものを学ぼう。素直に反省しよう。自己弁護と自己正当化は不毛で生産性に欠ける。よりよい社会をみんなで一緒に作っていきましょう。時に過去のいやな記憶がべったり固着してしまって思考がストップしてしまっても、思い直し、未来の希望に注目し続けよう。自分自身にもそう言い聞かせ続けたいし、仲間たちにも心からそう呼びかけたい。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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