地域で生きる/20年目の地域生活奮闘記58~最近の出来事に考えさせられること~ / 渡邊由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

先日、冬休みの時間を利用して「帆花(ほのか)」というドキュメンタリー映画を観て来ました。脳死の状態に近いと生まれて間もなく宣告された娘の両親が苦悩しながら、14年の地域生活を支えていく事を実践してきたものを明るく描いた実話の映画でした。

コミュニケーションの在り方や成果主義に対する究極の問いかけをしている映画で、もちろんその中には医療的ケアを伴う介護が濃厚に必要である帆花さんを地域でどのように暮らし続けられる体制を継続していくのか、という永遠の課題が含まれています。

一見、何もできない、生きている価値があるのかと社会から問いかけられてしまう帆花さんがご両親を通して、社会に生きる事の意味を問い直していく存在へと変容していく様子が伝わってくるお話でした。

今の時代、様々な意味で生きづらさを抱え、生きる事に絶望を感じていろいろな社会問題が生じてしまう状況下で、一筋の温かい解決の糸口を静かに提示しているように感じられました。

監督は、舞台挨拶の中で「生命倫理を根底から覆す、事実に基づいた映画を作りたかった」と語っておられましたが、それを見事に達成した作品であったと思います。

話題は少し変わりますが、私は今、自立生活21年目が間もなく終わり、2月の半ばが来ると22年目に突入しようとしているところです。そんなとき思いもよらない青天の霹靂のような出来事が起こりました。

足かけ5年間、私の夜勤を週2泊の週と週3泊の週を交互に繰り返しながら私の自立生活を支えてきた介護者が急逝されてしまったのです。2日前まで私の夜勤に入り、次の夜勤時に変わったことはないかとか、一週間後は外出先に迎えに来てくださいなどと言う日常生活会話を交わしたのが最後の言葉となってしまいました。あっという間の出来事過ぎて未だに実感はなく、きつねにつままれたような状況で、生活をしています。

5年も寝起きを共にしていれば、仕事とはいえ様々な人間的ぶつかり合いの中で生活をともに紡ぐといった感じで支えて下さっていました。暮らしの中ではうまく行く事ばかりではなく、ついつい言わなくても良いことを一言多く話してしまい、口もききたくない程、話し合いを重ねたこともありました。

忽然と私の前から消えてしまった介護者Aさんに今となっては言わなければ良かったと後悔することがたくさんあります。改めて障がいの有無や程度というようなこととは関係なく、この瞬間は今しかないという観点でその時その時をその人らしく生き抜くことの重要性をつくづく感じています。

介護という、仕事上のお付き合いの人ではありましたが、時には介護一周年記念を機に、日帰りで小田原にその介護者と遊びに行き、浜焼きをお腹がはちきれんばかりに食べたことも、今ではかけがえのない思い出となってしまいました。私が地域で生きる事を紆余曲折しながら5年弱も支えてくれた介護者には感謝しかありません。

それから、テレビ出演なども多数され、華麗な女性障がい者リーダーも闘病の甲斐なく昨年末クリスマスに旅立たれました。

病院に入院して闘病をする中でも、毎日フェイスブックに自分なりの闘病の在り方を克明に投稿され、今、障がい者運動の中で、変えなければならない入院時ヘルパーの問題を実践的に解決されるべく、在宅に戻れた時に生活がスムーズに送れるよう準備をしながら、医療的ケアが濃厚になっていくなかでも地域で暮らす再起まで在宅を貫き通す実践を決して重くならない軽やかなタッチで生き抜いた女性障がい者リーダーの鏡のような方でした。

私は様々な活動の中でご挨拶を交わす程度の浅い関わりしか作る事が出来ておらず、学びたいことが沢山あった方だけに残念でなりません。どんなに過酷な状況下にあっても笑顔が絶えないということは周りを全て明るくするという意味で実践していきたい事の一つです。

年始早々から私にとってヘビーな出来事が続きましたが、なんとか立て直しの目途が立ってきている中で22年目を滑り出していきたいと思います。来週から元通りの社会参加活動が本格始動しようとしています。今年も丁寧に活動の継続を図る中で、重度な障がい者が地域で生きる事をぶれなく、実践しながら生き続けていこうと考えています。

オミクロン株の急拡大が報道されていますが、それが落ち着く頃に春風に誘われて旅に出たいと本気で模索を始めた休暇でもありました。今回は障がい者旅行を専門に取り扱う旅行社の方にプランニングの段階からきちんと相談をして介護者は日ごろ慣れている人を同行してもらい、無駄なくその土地の魅力を余すところなく旅行できるよう考えていきたいと思っています。

もう何年も飛行機には乗っていないので重度障がい者を搭乗させる技術が格段に進歩している事を期待して行ってみようと思っています。実践できた暁には旅行記を連載でこのブログに書けたら良いなと今からわくわくしています。楽しむ事も忘れない一年でありたいと思います。

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

関連記事

TOP